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最近1年以内に、読んだファンタジー


目次

『海より生まれし娘』『夢の灯りがささやくとき』
『魔宮の攻防』『復活の朝』『熱砂の放浪者』『永遠への飛翔』
『デスティニイ −大空の子−』  『鬱金(うこん)の暁闇 1〜3』
『グリフィンの年』  『宿命の囁き』  『竜の騎士』
『セブンスタワー 1 光と影、 2 城へ、 3 魔法の国』
『ゴブリン娘と魔法の杖』  『魔法の声』
『狐笛のかなた』  『七人の魔法使い』
『裔(すえ)を継ぐ者』  『鏡のなかの迷宮 2 光る石』
『フェアリー・ウォーズ ベレスの書』  『天より授かりしもの』
『七つの封印 1 大魔術師の帰還、2 悪魔のコウノトリ』

< 未読だったファンタジー >

『ふたりのアーサー 1 予言の石』
『サークル・オブ・マジック 1 魔法の学校、2 邪悪の彫像、3 ブレスランドの平和』
『バビロン・ゲーム』  『ケルトとローマの息子』
『魔術師マーリンの夢』  『レイチェルと魔導師の誓い』


現在でも、購入できる図書には、オンライン書店「bk1」へのリンクを張りました。お買い物にお役立てください。表紙画像は、「bk1ブリーダー」として、又は出版社から許諾された範囲で使用しています。(2005.1/16)






 このタイトルでしょっちゅう書いているような気がして調べたら、No.82 (2003.4 「最近読んだ ファンタジー」)以来だった。意外に使っていない。前回の原稿末尾の<これから読もうと思っている 未読作品>にもできたら触れてみたい。

『海より生まれし娘』『夢の灯りがささやくとき』 <シャーリアの 魔女 1〜2> ダイアナ・マーセラス作、(c)2001〜2002、ハヤカワ文庫FT、2003〜2004

海より生まれし娘 上
(ハヤカワ文庫 FT 338)

ダイアナ・マーセラス著
・関口幸男訳

海より生まれし娘 下
(ハヤカワ文庫 FT 339)

ダイアナ・マーセラス著
・関口幸男訳







 3部作の第1、2作。先住民族シャーリア一族の女たちには、資性に恵まれた“魔女"が生まれることがあった。しかし、この地に好戦的なアレマニ人が移住してきてから迫害され、今ではごくわずか隠れ住む有様。ブライアリーは、魔女の素質を否定して自殺した母からは何も教わらなかったが、隠れ住んだ洞窟に残された先代、先々代の魔女たちが書き残した日記などから学び、若くして産婆として暮らしていた。ふとしたことから告発され、監禁されているとき、ずっと探していた“魔女"の兆しを持つ少女を見つける。拷問官をなんとか撃退し、少女メガンを連れて逃亡生活へ…。よくある「貴種流離譚」の一種。ブライアリーは「海の魔女」で、メガンは「火の魔女」。それぞれ守護精霊である四大「海の竜」「火の竜」「森の竜」「気の竜」がいる…というのもどこかで聞いたような。ただ、ブライアリーが自立する女の近代的な自我を持ち、彼女に味方する地元の貴族と恋に落ちるという展開が、第3部でどのように決着するか。第2部でちらっと出てきた森の魔女の資性は何なのか? 「星の井戸」の役割は?
夢の灯りがささやくとき 上
(ハヤカワ文庫 FT 354)

ダイアナ・マーセラス著
・関口幸男訳

夢の灯りがささやくとき 下
(ハヤカワ文庫 FT 355)

ダイアナ・マーセラス著
・関口幸男訳










『魔宮の攻防』『復活の朝』『熱砂の放浪者』『永遠への飛翔』  <グイン・サーガ伝91〜94> 栗本薫作、ハヤカワ文庫JA、2003〜2004

魔宮の攻防
(ハヤカワ文庫 JA 732)

栗本薫著
復活の朝
(ハヤカワ文庫 JA 739)

栗本薫著






 ご存知の長編シリーズ。「悪の種子」のような精神生命体アモンが、キタイの竜頭王ヤンダル・ゾッグの差し金で、パロの“王子"として生まれ、パロ王レムスのコンプレックスいっぱいの心につけ込み、首都クリスタルのみならずパロ全土を黒魔道王国に変え果ててしまった。そこへ、グインがケイロニア軍を率いて乗り込み、ついに物質転送機のある部屋でアモンと対決。舞台がまたまたノスフェラスに移ってからは、少々SF気味。「三大魔道師」の一人ロカンドラスも結局、グインを 星船に案内するだけの役回りだったのなら拍子抜け。
熱砂の放浪者
(ハヤカワ文庫 JA 748)

栗本薫著
永遠への飛翔
(ハヤカワ文庫 JA 756)

栗本薫著









『デスティニイ −大空の子−』 エリザベス・ヘイドン作、(c)2001、ハヤカワ文庫FT、2003

デスティニイ 上
(ハヤカワ文庫 FT 342)

エリザベス・ヘイドン著
・岩原明子訳

デスティニイ 下
(ハヤカワ文庫 FT 343)

エリザベス・ヘイドン著
・岩原明子訳







 3部作の第3作。一応、人間とリリングラス (草原性のエルフ? のような一族)の混血で <歌い手> であり“命名者”であるラプソディ、彼女の連れとなる、元“殺し屋"でドラキア族の血をひくアクメド、大男の軍曹でフィルボルグ族の血をひくグルンソルの3人組が主人公。第1部が『ラプソディ −血脈の子−』 (副題はアクメドを指す)、第2部が『プロフェシイ −大地の子−』 (副題はグルンソルを指す)。どれも上下巻で各 500ページ以上、最終巻は 650ページという文庫本としてはとんでもない厚さ。ちょっといろいろ詰め込み過ぎか。世界を形作る5つの要素のうち、「火」の要素を受け持つフドール族だけが“悪”霊で、この悪が世界を焼き滅ぼすことを防ぐ戦いが中心にあり、「時間の始まった場所」セレンダイル島だの、本初子午線を超えた第1世代は年をとらないだの、時間を巡る世界の設定が背景にあり、どうやら時の流れの外で「時間編集者」が歴史を再編しているらしき外枠の物語があり…どうやって収束させるのか心配だったが大体収まった。「時間編集者」メリディアンの正体は名前の由来を考えればわかったか。『ぱろっと通信』No.71 (2001.6)で、第1部を紹介した作品。


『鬱金 (うこん) の暁闇 1〜3』  <破妖の剣6> 前田珠子作、集英社コバルト文庫、2002〜2003

鬱金の暁闇 1
(コバルト文庫)

前田珠子著
鬱金の暁闇 2
(コバルト文庫)

前田珠子著
鬱金の暁闇 3
(コバルト文庫)

前田珠子著
 ようやく最終話が開始。しかし、こんなに漢字が難しいと、検索するのも一苦労。ラエスリールの護り手である紅の妖主は最近迫力不足だけど、弟に食われたのかと思っていたラエスリールの実の父・金の妖主がいよいよ出てきそうで、コワイ (題名が鬱「金」だもんね) 。久々に読んだら、こんなにもってまわった書き方をする作家だということを忘れていた。主人公のラエスリールは半人半妖だが、妖魔を退治する破妖刀「紅蓮姫」の持ち主。自分を人間だと信じていた頃は、妖魔を退治する人間たちの牙城「浮城」の戦士だった。今は、素性のため追放の身。のみならず、「浮城」から、破妖刀「紅蓮姫」を奪還するよう命じられた3人組に追われている。なんとそのうちの一人のリメラトーンの前世(?)が「紅蓮姫」を作った人物で、ラエスリールの武器が敵方になついてしまう。一方、恋心に疎いラエスリールが自分の気持ちにようやく自覚が出てきたかというと…それはそうは問屋がおろさない。以前、 ラエスリールのそっくりさんが出てきたが、今回は弟のそっくりさんが登場。作者のいつもながらの遅筆が、第3巻の薄さに反映し、ネットのカスタマーレビューでは悪評である。


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『グリフィンの年』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作、(c)2000、 創元推理文庫、2003

グリフィンの年
(創元推理文庫)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著
・浅羽莢子訳

  <ダークホルム二部作> の2作目。魔術師ダークの「グリフィンの娘」エルダが入学した魔術師大学のドタバタ劇。今回は世界の危機は訪れないが、各地の様々な民族や国家からの留学生たちがお忍びの王族や海賊の娘だったりして、トラブルの方が押し寄せてくる。新入生たちは、お互いに協力して仲間を守ろうとするが、魔法はまだ未熟だし、教師たちの方も保身が大事で、真の大魔法使いがいない有様。予言されていた「グリフィンの年」とは何が起こるのか、大学側はそれに対して何か手を打てるのか、留学生たち、そしてエルダの学業は成就できるのか?!


『宿命の囁き』 <ヴァルデマールの風1> マーセデス・ラッキー作、 (c)1991、創元推理文庫、2003

宿命の囁き 上
(創元推理文庫)

マーセデス・ラッキー著
・山口緑訳

宿命の囁き 下
(創元推理文庫)

マーセデス・ラッキー著
・山口緑訳







 三部作の第一作。魔法を寄せ付けないはずのヴァルデマール国内で、王女エルスペスに忍び寄る魔法の暗殺者。女剣士ケロウィン( <ヴァルデマール年代記> 全体で前作にあたる『運命の剣』のヒロイン)が訓練したおかげで暗殺者を撃退したエルスペスは、自ら“達人”級の魔法使いを探し求める旅に出る。エルスペスに譲られた「運命の剣」である <もとめ> は、魔法使いが生まれないはずのヴァルデマール国の王女エルスペスの中の魔法の素質に反応し初めて自ら語りかける。一方、“シン・エイ・イン”一族の“鷹の兄弟”の魔法使いである <暗き風> (この命名を見ると、作者ラッキーの描く“シン・エイ・イン”はアメリカインディアンのイメージに近いようだ) は、彼らの住む谷を守る魔法が意図的に破壊されていることを感じ取っていた。ヴァルデマール独特の資格能力者「使者」、その使者と <共に歩むもの> は馬の姿をとる精霊で、共に歩む使者とは心話で話す。 <暗き風> と親しい鷲獅子 (グリフォン) は、魔法を使う生き物で、人間の言葉も操る。まだ半分も訳されていないので、世界の輪郭が見えてきたところか。続きが待ち遠しい。


『竜の騎士』 コルネーリア・フンケ作、(c)1997、WAVE出版、2003

竜の騎士
コルネーリア・フンケ著
・細井直子訳

 フンケの作品は、どうも読みにくい。ぎっしりいろいろ詰め込んであるせいか。これは作者がドイツ人のせいか。イギリスの山奥で暮らしている竜たちは、人間の開発の手が迫っていることをネズミから警告される。しかし、すっかり怠惰になってしまった年寄り竜たちは、動こうとしない。ただひとり、若い銀の竜ルングだけが、長老から聞いた竜の国「空のはて」を探しに旅立つ。コボルトの少女シュヴェーフェルフェルと、人間の少年ベンを道連れに。と筋立ては面白い。生きた竜を殺戮するのが生き甲斐の、錬金術で作られた「黄金の竜」、その手下のホムンクルス、ルングたちを手助けする考古学者…敵役、脇役もなかなかよい。でも、後半3分の2くらいまでなかなか進まなかった。同じドイツでも、『ネシャン・サーガ』のラルフ・イーザウの方が、ずっと読みやすかった。コボルトの名前が「シュヴェーフェルフェル」というのは、全然イギリスらしくないので、いくらドイツ人の作家でも、舞台に合わせた命名をした方がよかっのでは。


『セブンスタワー 1 光と影、 2 城へ、 3 魔法の国』 ガース・ニクス 作、(c)2000、小学館、2003〜2004

 訳が悪いのか、駄作なのか、第一巻はいやもうやめようかと思ったくらいつまらなかった。『サブリエル』の作者だと思って読んだのが悪かったのかもしれないが、いくら低学年向きでも、もう少しなんとかならないか。主人公たちが紋切り型なのがつらい。『デルトラクエスト』 (エミリー・ロッダ作) も相当にわざとらしかったが、あれより薄っぺらな感じ。一応、悩んだり、反省したりするのだが、どうにもボードゲームの紙の駒みたいなのだ。「ベイル」が空を覆っている闇の国が舞台で、七つの塔に住んでいる「光の選民」は、レッドからバイオレットの7つの階級に分かれて暮らしており、何らかの功績があれば、昇級できる。主人公の少年タルは、オレンジ階級。行方不明の父さんを探すのと、家族のために強力なサンストーンを手に入れるために、子どもなりに努力するのだが、意地悪な親戚や、父親と対立しているらしい役人の妨害で、すべて失敗。「ライラの冒険」三部作に出てきた“ダイモン”のように、人間の影として常にそばにいる“スピリシャドウ” (実は、魔法の国アイニールから連れてこられて手なづけられた怪物) とか、塔で選民に使える地下民の一族、外の氷原で暮らし独立心が高く女戦士を擁する氷民一族など、道具立ては整っているのだが。2004年 5月現在、第4巻「キーストーン」が翻訳刊行された。
セブンスタワー 1 光と影
ガース・ニクス作・ 西本かおる訳
セブンスタワー 2 城
ガース・ニクス作・西本かおる訳
セブンスタワー 3 魔法の国
ガース・ニクス作・ 西本かおる訳
##2005年1月現在、第5巻『戦い』まで翻訳刊行済み。(後日記)

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『ゴブリン娘と魔法の杖』 <魔法の国ザンス15> ピアズ・アンソニイ 作、(c)1992、ハヤカワ文庫FT、2003

ゴブリン娘と魔法の杖
(ハヤカワ文庫 FT 347)

ピアズ・アンソニイ著
・山田順子訳

 ゴブリン娘グウェニイは、族長だった亡き父の継承権を弟と争う。ザンスの世界のゴブリン男には、最低の価値観や態度が最高とされている。その支配を打破すべく、グウェニイは継承権争いの課題をクリアしなければならない。ゲームの世界と同様、ザンスのシリーズは、必ずよき魔法使いハンフリーの城へ悩める主人公が質問を抱えて訪れ、そこから得た答えを実現するためにまた旅立つ。今回は、なんと二組の3人組が登場。片方は、夫を求めている人魚のメラ、捨て子でニンフに育てられた人間のアイダ、人食い鬼らしくなく、知性のある女人食い鬼のオクラ、もう一組は、グウェニイとその友人で翼あるセントールのチェ、 <ふたつの月がある世界> から来たエルフのジェニーだ。この二組は、もちろん最後には道筋が交わるのだが、途中までは交互に珍道中が描かれる。その間、ザンスのシリーズになじんだ人なら何度か出会っている女悪魔のメトリアとか、アイビィ王女とか、催眠ひょうたんの世界とか観光案内的に楽しめる。一応、初めて読む人も、セントール (ザンスでは知識階級) のチェに解説的なセリフを言わせたりしているのでわかるようになっている。あれこれ考えずに楽しめばいいので、疲れているときに最適。まあこういう異世界もののスラップスティックを楽しいと思えない人には残念ですが。


『魔法の声』 コルネーリア・フンケ作、(c)2003、WAVE出版、 2003

魔法の声
コルネーリア・フンケ著
・浅見昇吾訳

 というわけで、やはり読みにくい。もうフンケの作品はいいや。本の修理職人の娘が主人公で、なぜか母親は謎の失踪、父と娘は、何かから逃げて転々と暮らしている。それというのも、父が本を朗読すると、何かが本の中から出てきてしまい、代わりに何かがなくなってしまう (本の中に入ってしまう。) 魔法の声の持ち主だったせい。たいていは無害な物ばかりだったが、ある日妻を本の中に送り込んでしまった父は、代わりに飛び出してきた悪人から逃げているのだった。その時読んだ本が 「闇の心 (インクハート) 」という題名で、これが原題になっている。これも筋立てはいいのだが、その悪人が現実の人間を実に醜悪に支配し、迫害するのが読んでいて気分が悪い。ここまで書かなくても同じことが言えるのではないか。


『狐笛のかなた』 上橋菜穂子作、理論社、2003

狐笛のかなた
上橋菜穂子作
・白井弓子画

 どうも日本のファンタジーが少なくて、「グイン・サーガ」と<破妖の剣>だけじゃ…と思っていたら、ありました。舞台は、室町時代頃の日本でしょうか。隣り合った領地をめぐる領主の争いに、霊狐を使いこなす呪者が双方にいて、呪いを掛け合っている。主人公の少女・小夜は産婆をしている祖母と二人暮らし。実は亡き母から人の考えが聞こえる <聞き耳> の才能を受け継いでいる。ある晩、小夜は傷ついた子狐・野火をかくまって今まで入ったことのないお屋敷の裏庭で少年小春丸に助けてもらう。何年か後、小春丸は、小夜の住む国の領主の次男で、長男亡き後、跡継ぎとして名乗りをあげることになり、野火とは敵方の使い魔として再会することになる。「狐笛」とは、呪者の一族が霊狐を使い魔として縛る道具。野火は小夜に惹かれながら、敵対しなければならない。小夜の両親の秘密、 <聞き耳> の才能は、小夜をいやおうなくふたつの国の対立に巻き込んでいく。上橋菜穂子のファンタジー「守り人」シリーズは、どこか東南アジアの文化人類学に立脚しているような感じがするが、今回は純和風の味わい。ドキドキさせておいて、しんみりもさせる。


『七人の魔法使い』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作、(c)1984、 徳間書店、2003

七人の魔法使い
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作
・野口絵美訳・佐竹美保絵

 これも一種のドタバタ劇。ある日主人公ハワードが学校から帰ると、大男のゴロツキがいすわって、父さんが原稿執筆の契約を履行するまで動かないという。父さんはもう書いた原稿の書き直しはしないと突っ張るし、母さんも居直って、居候こみの生活が始まる。腹にすえかねたハワードが問題を解決しに原稿依頼者の所へ乗り込むと、背後には、この町を裏で支配している七人の魔法使いがいて、なぜか町から出られないことが関係しているらしい。

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『裔(すえ)を継ぐ者』 たつみや章作、 講談社、2003

裔を継ぐ者
たつみや章作
・東逸子絵

 『月神の統べる森で』にはじまる超古代ファンタジー4部作の外伝。日の神の巫女ヒミカのクニと、月神などカムイを信じる者たちのムラ。2つの文化の衝突から平和を築いた戦いから五百数十年後。ムラの少年サザレヒコは、なかなか自分の弓矢を持つことを許されないのにじれて、こっそり兄の弓矢を持ち出し、あげく月神の息子の化身である白い大蛇を射て、ムラを追放される。幼い頃に大病して、小柄なサザレヒコは甘やかされて育っており、カムイを見る能力もあるのに、性格がひねくれている上、すごい利己的。彼を助ける、少年の姿をした人物にも甘ったれたわがままで文句を言ったり、実に嫌みな現代っ子そのもの。追放されても自炊すらできない。これは死を宣告されたも同然の罰だったが、実は彼に与えられた試練だった。東逸子の美しいイラストが人気の一端。


『鏡のなかの迷宮 2 光る石』 カイ・マイヤー作、(c)2001、あすなろ 書房、2003

鏡のなかの迷宮 2 光る石
カイ・マイヤー著
・遠山明子訳・佐竹美保絵

 3部作の第2部。パラレル・ワールドの19世紀末のヴェネツィア。世界は、ミイラ軍団をあやつるエジプトに征服されかかっている。抵抗しているのは、「水の女王」に守られているヴェネツィアと、バーバ・ヤガーが君臨しているロシアだけ。主人公の14歳の少女メルレは、第1部「水の女王」でエジプトに攻め込まれたヴェネツィアから、水の女王を救い出し、生きている石のライオン・フェルミトラクスに乗って脱出。今回はなんと「地獄」へ。別に、「地獄」っていっても閻魔大王とか悪魔のいる世界ではなく、地下の裂け目の奥に広がる世界のこと。ただし、地上にいない生物・現象がうじゃうじゃ。岩に擬態できる大小様々な形の節足動物のような“リリム”、空飛ぶ巨岩の頭像「伝令」、人の心臓を石の心臓に取り替えるのが仕事の外科医…。「光る石」を支配している「光の王」にヴェネツィアの救援は頼めるのか?


『フェアリー・ウォーズ ベレスの書』 ハービー・ブレナン作、 (c)2003、ソニー・マガジンズ、2003

フェアリー・ウォーズ|ベレスの書
ハービー・ブレナン著・種田紫訳
 あんまり期待しないで読んだせいか、よかった。最初は、両親の離婚の危機に直面した14歳の少年ヘンリーのリアリズム文学かと思ってしまいそうな出だしだが、いきなり第2章は舞台が妖精の国に変わる。ただしそこに住んでいる人間を「光の妖精」「闇の妖精」という種族名で呼んでいるだけの世界に思える。まあ、とにかく妖精国の住人が、 <フィルター> なしで我々の世界に来ると、羽の生えた小さな姿になってしまうのだとか。妖精国の皇太子バーガスが威勢よくて、楽しい。妹のホリー・ブルーも若いのに策士で頼もしい。「ベレスの書」とは、悪魔の王ベレスを呼び出す術が書かれている魔法の書。この本を「闇の妖精」が手に入れて、バーガスを排除しようとベレスを呼び出すのだが、実はそれこそ悪魔の思惑にはまっていたのだ。


『天より授かりしもの』 アン・マキャフリー作、(c)1999、創元推理 文庫、2004

天より授かりしもの
(創元推理文庫)

アン・マキャフリー著
・赤尾秀子訳

 SFの女王マキャフリーが孫娘のために書いたおとぎ話。「植物を育てる」という"庶民的な"天与の才能を持つ王女が、その才能を生かす機会も与えられないまま政略結婚させられそうになり、家出する。そこへやはり逃げてきた従者の少年がいろいろ手助けしてくれるのだが、ある日少年の留守に森番が…。料理したことも掃除したこともない王女が、うち捨てられた森の一軒家で果して暮らしていけるのか。「天与の才能」が生かせないことの苦しみや、少年との関係の変化の描き方などちょっと物足りない。

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『七つの封印 1 大魔術師の帰還、2 悪魔のコウノトリ』 カイ・マイ ヤー作、(c)1999、ポプラ社、2003

七つの封印 1 大魔術師の帰還
カイ・マイヤー原作
・山崎恒裕訳・山田章博絵

七つの封印 2 悪魔のコウノトリ
カイ・マイヤー原作
・山崎恒裕訳・山田章博絵







 上記『鏡のなかの迷宮』の作者の小中学生向け作品。「デルトラ」や「セブンスタワー」よりずっとマシっぽい。舞台はドイツらしい架空の町ギーベルシュタイン。今回、読み始めで思ったのは、ファンタジーとわかって読むにしても、舞台が架空の世界なのか、現実の地球上のどこかだけど時代が違うのか、時代は現代だが場所だけ架空なのかすぐにわからないなあということ。主人公の少女キラはおばさんと住んでいる。母は既に亡く、考古学者の父は年中旅行している。ある日の夕方、家に帰る途中の野原で、美しいが奇妙な女を見かける。女は鳥を捕まえた、空飛ぶ奇妙な魚(!) を手にしたボストンバッグに回収したのだ。おばさんに話すと震えだし、昔キラの母親が戦っていた魔女だと言う。一話完結で現在10巻まで刊行ずみ。
##2005年1月現在、第10巻『月の妖魔』まで翻訳刊行済み。(後日記)



< 未読だったファンタジー >


 前回原稿の末尾で挙げた作品。ハリポタ以来たくさん翻訳が出るがアタリは少ない。

『ふたりのアーサー 1 予言の石』 ケビン・クロスリー=ホランド 作、(c)2000,ソニーマガジンズ、 2002

 どうにもつまらなくて、ようよう第1巻のみ読んだ。なんかただの歴史小説みたい。


『サークル・オブ・マジック 1 魔法の学校、2 邪悪の彫像、 3 ブレスランドの平和』 デブラ・ドイル&ジェイムズ・D.マクドナルド作、(c)1990, 小学館、2002

サークル・オブ・マジック
デブラ・ドイル著・ジェイムズ・D.マクドナルド著
・武者圭子訳

サークル・オブ・マジック
デブラ・ドイル著・ジェイムズ・D.マクドナルド著
・武者圭子訳







 帯の惹句「英国FTの決定版」というだけあり面白い。騎士見習いだったランドルは、城を訪れた魔法使いに魅せられて魔法使い学校に。ロウソクに火をともす進級試験に苦労したり教師の陰謀に巻き込まれたり。リュートの歌い手の少女リース、ランドルの従兄の騎士ウォルター三人の冒険物語。「魔法使いは嘘がつけない」のだそうだ。
サークル・オブ・マジック
デブラ・ドイル著・ジェイムズ・D.マクドナルド著
・武者圭子訳




『バビロン・ゲーム』 キャサリン・ロバーツ作、(c)2002,集英社、 2002
 未読。
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『ケルトとローマの息子』 ローズマリー・サトクリフ作、(c)1955, ほるぷ、2002

 歴史FTと出ているので入れたが、ローマ・ブリテン三部作同様完全な歴史物。


『魔術師マーリンの夢』 ピーター・ディキンスン作、(c)1988,原書房、 2000

 昔読んだウェザーマンガー3部作のひとつか? と期待したが、全然違った。短編・中編をマーリンの夢でつないだオムニバス。しかも全く面白くない。


『レイチェルと魔導師の誓い』 クリフ・マクニッシュ作、(c)2002, 理論社、2002

レイチェルと魔導師の誓い
クリフ・マクニッシュ作
・金原瑞人訳・松山美保訳

 3部作の完結編。地球の子どもたちは皆、飛べるようになっている。レイチェルがやっつけた魔女の生残りが地球に攻めてくる。破綻していないが、それほど引き込まれない。

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(『ぱろっと通信』No.89 (2004.6.1発行)より転載)