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安野光雅の絵本

   安野光雅の絵本が好きで、エッセイ集『空想工房』(平凡社、1979)や『算私語録』(朝日文庫、1985)も読みました。今年(2011)の 5月には、津和野の安野光雅美術館にも行って、原画やプラネタリウムを見てきました。すると、なぜかこの秋に、神奈川でふたつも安野光雅の 原画や絵本の展示会があることがわかったので、その案内も付けて、わたしの好きな安野光雅の絵本を紹介することにしました。

   
目次
1 ふしぎなえ 5 はじめてであうすうがくのほん
2 ABCの本 6 かげぼうし
3 あいうえおの本 7 安野光雅の画集
4 もりのえほん 安野光雅の展示会 

ふしぎなえ 福音館書店、1971
   扉ページの絵からして変だ。開いた本の表紙の上に、小人が立っているが、まるで本の内側に 立っているようだ。最初の見開きの楽隊は、鳥瞰図と思えばいいが、次の家では、小人たちにだけ重力の法則が上下逆に働いている。鍋や電球は 素直にぶら下がっているのに、小人たちは、屋根の内側で滑り台をしていたり、階段の裏側に腰掛けていたり、軒から屋根の方へぶら下がったり している。8の字に交差している無限階段はなぜか両方とも上り階段。迷路の入口と出口では重力の向きが逆になっていたり、歩道橋を上って いくといつの間にか裏側に立っていたり、横からの断面図と上からの断面図が同居していたり、水道の蛇口から出た水が川となって町中を流れ、 最後にまた水道管の後ろのじょうごに降り注ぐ無限水道…。いろいろな錯視や、平面ならではの「ふしぎなえ」。裏表紙では、鏡文字でタイトル が印刷されているという懲りよう。初めは雑誌『こどものとも』1968年3月号として描かれた、文字なし絵本。
ABCの本 へそまがりのアルファベット 福音館書店、1974
  「へそまがりのアルファベット」というサブタイトルどおりの、一筋縄ではいかないABCの本。見開き左に、木で作られたABC …の文字。これがそもそも「へそまがり」で、ありえない形でつながっている。右ページには、ABC…の頭文字で始まる物が真ん中にひとつ。 「A」の「金床 (Anvil)」は難しいが、「B」の「自転車 (Bicycle)」、「C」の「壁時計 (Clock)」など比較的わかりやすい。もちろん、 物の絵のほうにも、いろいろ仕掛けがあるので、ついついじっくり見てしまう。ページの周囲を飾る植物と動物は、白黒のイラスト。ABC…で 始まるものが描かれている。巻末の「てびき」に、各ページに出てくるものの綴りがリストアップされているので、「A」に「蟻 (ant)」なんて いたかな? など何度も楽しめる。「S」の「天秤ばかり」は、『安野光雅の画集』にも出てくる「ひとをはかるはかりでじぶんもはかられる」。
あいうえおの本 福音館書店、1976
   『ABCの本』と同じ作りだが、木製の文字の方は、実際に作れそうだ。右ページ真ん中のイラストは、 ちょっと懐かしい日本を思わせる物が多い。「いえ」は茅葺き屋根で、「おめん」はおかめと赤鬼。「け」は剣玉で、「そ」はそろばん。ページの 周囲を飾る白黒の植物と動物は、今度は日本語だから、巻末の「てびき」を見ないでどれだけあてられるか探したい。(しかも、「てびき」 の最後には、「このてびきにないものも、いくつかみつけられます。」とある!)「ぬ」と「め」、「は」と「ほ」、「る」と「ろ」には、 「P」と「R」と同じ工夫が。「さ」は桜の木とか、「み」には溝があり、「む」には虫食いがあるとか、後で見直すと気づくこともいろいろ あって飽きない。表紙の目録カードケースのような引き出しには、「あ」「い」「う」…と書いてあり、裏表紙の「わ」「ん」「を」まで続く。 本を開けると見返しと扉の間のページに、引き抜かれた「あ」の引き出しが描かれていて、中には「あ」と書かれた薬包紙がたくさん入って いる。本の後ろ見返しの前のページには、やはり引き抜かれた「ん」の引き出しが描かれていて、一見整合性があるが、実は、「ん」の引き出し の横に…仕掛けがあるのだが、読んでのお楽しみ!
もりのえほん 福音館書店、1981
  文字なし絵本。一見、ただの風景画に見えるが、安野光雅なのでそんなはずはない、とページをめくりながら目をこらすと、 突然、マントヒヒの顔が見えたりする。そうすると戻って全ページ、本を上下逆にしたりして、くまなく見る羽目に。何かいそうなところには、 もちろん、何かいます。ワニとオオハシが並んでいたり、ライオンやパンダは簡単だけど、どくろは見つけられるかな? 魔法使いもいるよ。
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はじめてであうすうがくの絵本(1) 福音館書店、1982
   1972〜1974年初版の〈はじめてであうすうがくの本〉シリーズ『なかまはずれ』『ふしぎなのり』などを再構成して合本。 〈すうがく〉というより、科学的なものの考え方が整理されている。「ふしぎなのり」は、「○○」に「車」をくっつけてみよう、というわけで なんにでも車輪をくっつけているうちに、車椅子とかキャスター付きのトランクなど、実用的なものの発明になる場合もある。 続編に(2)(3)もあり。
かげぼうし 冨山房、1976
   影ぼうしの国と光の国のふたつのおはなしが交互に語られる。影ぼうしの国のイラストは切り絵。 冬になって太陽の出る日が少なくなると影たちは影ぼうしの国に帰ってくる。この国のただ一人の人間、見張り番は太陽が出そうになったら合図 するため、いつも遠くを見ている。雪のふっている光の国では、マッチ売りの少女がマッチが売れなくて困っていた。そこへ来た男の人がマッチ を買って火をともすと、鮮やかな影ができる。そのころ、影ぼうしの国では、見張り番がいなくなって大騒ぎになっていた…。左ページに光の 国、右ページに影ぼうしのの国、と別々に進行するおはなしがどのように大団円を迎えるのか?

安野光雅の画集 講談社、1977
   雑誌『数理科学』などの表紙のために描かれたイラスト集。エッシャーの描くような無限 階段のあるお城を描いた「このかいだんにゆきどまりはない」や、玉じゃくしがだんだんおたまじゃくしに変化する「おたまじゃくしはおたまの ひまご」など、ニヤリとするものや、音階を色で塗り分け、シューベルトとワーナーの二つの「野中の薔薇」を表わした色の楽譜や、数字を色で 表わした「くくひょう」など、美しい作品も。わたしが好きなのは、「まっちのいっしょう」。こんなマッチなら、一生使ってもなくならない。
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安野光雅の原画展示会など
安野光雅展  アンデルセンと旅して  安野光雅美術館開館10周年記念
神奈川県立近代文学館  2011年(平成23年) 8月6日(土)〜9月25日(日)
http://www.kanabun.or.jp/te0166.html
安野光雅の絵本展
そごう美術館(横浜駅東口・そごう横浜店6階)  2011年(平成23年)9月17日(土)〜10月10日(日)
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/11/0917_anno/index.html
津和野町立安野光雅美術館 平成23年度展示スケジュール
http://www.town.tsuwano.lg.jp/anbi/tenran/index.html


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