1 翻訳されたマザー・グース絵本
A.アーサー・ラッカム
Arthur Rackham(1867〜1939, イギリス)
Mother Goose Nursery Rhymes (c)1985, Chansellor Press, London
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初版は1913年、Mother Goose the old Nursery Rhymes として刊行された。 161編収録。翻訳の方の巻末「解説」(荒俣宏)によれば、「妖精が隣人として生きている世界の風景画家」。カラー図版7つ収録。p.27左の「マフェットちゃん」の蜘蛛は眼鏡にシルクハットとユーモラスでグロテスク、p.10右やp.43左・p.75左など不気味な雰囲気は面目躍如。p.4の冒頭の「I(私)」の人物とp.91左の左下の男性は、ラッカムの自画像である。
※表紙画像は、ペーパーバック
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寺山修司訳『マザー・グース』新書館 1984
1977〜78年に新書館より三分冊で刊行されたものを原書と同じ体裁に合本(ただし、唄の並び順は原書と異なる)したもの。 126編収録。また、ひとつだけ三分冊版より翻訳が少ない(原書p.30下段。身体障害者差別用語を使った訳を削除)。寺山修二(1935〜83)は「はじめに」で「詩の場合は、『意味伝達』が目的ではないのだから、…合作者になって作り直すことが、訳のたのしみ」と述べている。「奥さま」(p.65,p.83)「お嬢さん」(p.69)といった呼び掛けは、寺山の「合作」部分である。
B.モーリス・センダック
Maurice Sendak(1928〜, アメリカ)
Hector Protector and As I went over the water (c)1965, The Bodley head Children Books, London, 1967
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初版は1965年、Harper & Row,Inc,New Yorkから刊行された。「Hector Protector」と「As I went over the water」は2つともマザー・グースの唄。それを26pと21pの物語にしたもの。言葉にない部分を絵で大幅に付け足して、元唄の字面から思い浮かべる内容に、別の意味を与えたりして独創的な話に仕立てている。前半の唄では、歌詞では、ヘクターはお后も王様も「ごきげんななめ」で帰されるのだが、絵では、お城へ行きたくないヘクターが不興をかうよう仕組んで目論見通り「おいかえされ」ると読み取れる。後半の唄に登場する怪物(海獣? 全然歌詞には登場しないイラストのみの副筋のキャラクター)は、代表作『かいじゅうたちのいるところ』(原書1963)を彷彿とさせる。
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じんぐうてるおやく『ヘクター・プロテクターとうみのうえをふねでいったら』冨山房 1978
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後半の「As I went over the water」を、谷川俊太郎は「かわをわたっているさいちゅう」と訳した。また、ベアリングールド注釈の『The Annotated Mother Goose』を訳した石川澄子は「水たまりの向うへ行った時」とした。「water」の解釈ひとつで唄が喚起するイメージが大きく異なるのがわかる。神宮輝夫(1932〜)はセンダックの「海」という解釈に従って訳しているが、「海」のイメージが英米で一般的なのか知りたいところだ。
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C.ニコラ・ベーリー
Nicola Bayley(1949〜, イギリス)
Nicola Bayley's Book of Nursery Rhymes (c)1975, Jonathan Cape Ltd., London
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22編収録。ベーリーは、ロンドンの王立美術大学で絵本作家のクウェンティン・ブレイクに師事。この作品で絵本作家として華々しくデビューし、世界の脚光を浴びたという。「天才的な女流画家」という評価を裏切らない、細密画のような点描画法、装飾的な縁取りなどを駆使して美しい世界を描き出す。『ながぐつをはいたねこ』(原書1976)『パッチワークだいすきねこ』(ウィリアム・メイン作、原書1981)『ネズミあなのネコの物語』(アントーニャ・バーバ作、原書1990)と猫を描いた作品が多い。
※表紙画像は、1992新版
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D.シャーロット・ヴォーク
Charlotte Voake(イギリス)
-A Book of Nursery Rhymes- (c)1985, Walker Books Ltd., London
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117編収録。シャーロット・ヴォークは、イギリスで生まれ、現在はアメリカのマサチューセッツ州在住。挿絵の仕事として、フィリパ・ピアス作『サティン入り江のなぞ』(原書1983)サラ・ヘイズ文『いたずらたまご』(原書1987)、自作絵本に『はじめのはじめ』(原書1988)『でんしゃがくるよ!』(原書1998)等がある(いずれも邦訳あり)。やわらかい線描とパステルカラーで、毒気の全くない、ほのぼのした世界を描く。
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E.ブライアン・ワイルドスミス
Brian Wildsmith(1930〜,イギリス)
Brian Wildsmith's Mother Goose (c)1964, Oxford University Press, Oxford
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86編収録。初めての自作絵本『Brian Wildsmith's ABC』(1962)でケイト・グリナウェイ賞受賞後は、挿絵だけでなく多数の自作絵本を描き、このマザー・グース絵本も『ABC』に始まる画家の名前を冠したシリーズの一冊。鮮やかな色合いのパッチワークのような描写が特徴で、「色彩の魔術師」と言われる。
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石坂浩二訳『石坂浩二のマザーグース』(講談社の翻訳絵本) らくだ出版 1992
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伊豆高原に「ワイルドスミス美術館」があり、その館長が石坂浩二(美術館のリーフレットにも絵本の方にも、どうして石坂浩二が館長なのか、絵本を翻訳したからなのか何も説明がない)。「ワイルドスミス氏の絵の世界が語る」新しい「マザーグースを訳出するよう心がけたつもり」とのことだが、朗読したり、目で読むだけでもぎこちない訳が多い。
(##『石坂浩二のマザーグース』は、2003年講談社から再刊。表紙画像は、Amazonアフィリエイトより。2012.11/4追記)
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F.ベリンダ・ドウンズ
Belinda Downes(イギリス)
A Stitch in Rhyme, (c)1996, Alfred A. Knopf, Inc., New York
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初版は1996年、イギリスのMethuen Children Booksから刊行された。48編収録。イラストがすべて刺繍の楽しい絵本。ベリンダ・ドウンズは、ハンプトン・コート(ヘンリー8世の宮殿で現在は博物館)で働いていたことのある刺繍画家。
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G.ターシャ・テューダー
Tasha Tudor(1915〜,アメリカ)
Mother Goose (c)1971, Random House, New York
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初版は1944年、Henry Z.Walck,Inc.から刊行された。76編収録(なぜか副題にSeventy-seven Versesとあるが)。ターシャ・テューダーは19世紀式の生活を愛し、田園生活と古き良き時代を描いた作品を多数発表。意外にユーモラスな絵、辛辣な絵もある。
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