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ここ2〜3年に買ったマザーグースの本  Part 2
―楽譜集とパロディ絵本―


目次
1 マザー・グースのイギリス 6 ミルクのおかゆのかぞえうた
    Little Miss Muffet counts to ten
2 Hey diddle diddle
    :Our best-loved nursery rhymes and what they really mean
7 くつのおうち
    Shoe Cottage
3 Our Old Nursery Rhymes 8 Dimity Dumpty
4 75 British Nursery Rhymes 9 The Adventures of the Dish and the Spoon
5 The Oxford Nursery Song Book 10 Dear Mother Goose


1 マザー・グースのイギリス
  楠本君恵著、未知谷、2010

  ホット・クロス・バンの値段が「1個1ペニー、2個1ペニー」なのは、子どもたちには自明の理だったとは、 やっぱり目からウロコ。 第五章「犬が笑う」では、「笑う犬」の恐怖は、うがちすぎのような気もします。「ネコ」と「バイオリン」の関係発見が興味深いです。 リンゴのマザーグース(第七章)やレディ(第六章)の出てくる唄をこのように読み解かれると、マザーグースが中産階級というよりも、 もう少し下の階級の唄だったのだなあと思われます。
2 Hey diddle diddle
    :Our best-loved nursery rhymes and what they really mean

  Sam Foster著、Summersdale Publishers Ltd., 2008

  ハードカバーですがハンディな本。著者も研究者ではなく雑文家のようで、『本当は残酷なグリム童話』みたいな感じ。 参考文献もあげられていないので、「この唄は実は…」と書いてあっても根拠は不明。少なくとも、現代のイギリス人でこう考えている人 もいるということはわかります。
  39篇取り上げられていて、有名な唄以外では、「A wise old owl」「Lucy Locket」「Christmas is coming」 「Polly put the kettle on」「Pop! Goes the weasel」などが入っています。
  巻頭の「Hey diddle diddle」を見てみると、まず、エリザベス女王の宮廷を指しているという説。「猫=女王本人」 「小犬=レスター伯」など。次に星座にあてはめる説。「猫=獅子座」「フィドル=琴座」「雌牛=牡牛座」「小犬=子犬座」など、 これらは四月の夜空に見える星座で、農夫がこれを見て種まきの時期を知ったとのこと。散文的な説として、18世紀に起源がある 「居酒屋巡りルート」説。現在A537線であるマックルズフィールドとバクストンを結ぶ道沿いにあったパブのうち「The Half Moon」は ずっと前に閉店したが「The Cat and the Fiddle」は営業中。「The Setter Dog」は2002年に閉店とのこと。このルート最後の店 「The Dish and the Spoon」は、現在も「The Peak View Tearooms」の名前で営業中、とのことです。

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3 Our Old Nursery Rhymes
  Alfred Moffat編曲、 H. W. Le Mair絵、Augener Ltd., 1911

  オランダ生まれのヘンリエット・ウィルビーク・ルメール(1889〜1966)の絵本。この『Our Old Nursery Rhymes』は、イギリスの音楽出版社アウグナー社から依頼されたうちの一冊。 30曲収録。全ての見開きの左ページにイラスト、右ページに楽譜が、美しい楕円の飾り罫に囲まれて載っています。ルメールのイラストは、 グリナウェイをさらに繊細にしたような感じで、アール・ヌーボーの様式美も備えています。楽譜は、私たちが知っているのとは 違うメロディーのものもあり、p.47の「Twinkle Twinkle Little Star」など全く違うので、驚きます。 ※アマゾン書店の画像リンクは、1994年のリプリント版です。
  姉妹編に『Little Songs of Long Ago』(1912)があり、こちらにはまた、全く知らない「London Bridge」の楽譜が載って おり、ちょっと貴重な資料です。どちらも再版本や再編集本が中古で出回っていますが、楽譜が付いていない場合が多いので、違う メロディーを見たい人は注意が必要です。
  両方の本から半分ずつ、楽譜ごと抜粋した翻訳が『ル・メールのマザーグース・メロディー』(偕成社、1993)として、CD付きで 出版されています。品切れのようですが、持っていない人は出会ったら、ぜひ入手をおすすめします。
4 75 British Nursery Rhymes
  Alfred Moffatピアノ伴奏 Frank Kidson編・註、Pook Press, 2010

  初版1904年。編者のキドソンは、イギリスの民俗音楽学者。それぞれの唄に付けられた、簡単なピアノ伴奏用の楽譜は、 キドソンの助手のモファットが編曲したことが「前書き」に述べられています。「メロディーは、それぞれの唄にいつも伴ってきたもの」 を採用したこと、ところどころに「大人」向けの注記を付けたことも書かれています。75曲収録。巻頭に目次の代わりに、歌い出しの索引が あって便利。
  この本の「London Bridge」も上記Our Old Nursery Rhymes と同じ、知られていないメロディー。くりかえしの歌詞も、 「My Fair Lady」ではなく「Dance over my Ladye Lea」。メロディーが同じなのは、Our Old Nursery Rhymes の楽譜も、同じ モファットが付けているからです。「Twinkle Twinkle Little Star」も同じく。でも、これが2010年にもリプリントされているという事実 は、このメロディーも親しまれている証拠と考えられます。また、日本で歌われている「キラキラ星」のメロディーはフランス由来ですが、 この本の「Twinkle Twinkle Little Star」は、「スパニッシュ・チャント」の旋律だという注記がついています。
5 The Oxford Nursery Song Book  Third edition
  Sir Percy Buck編 Jean Gilbert編曲、Oxford University Press, 1984

  初版1933年。以来、連綿と版を重ね、現代でも現役の楽譜集。108曲もの楽譜のうち、10数曲はフランスの「フレール・ ジャック」や「アヴィニョン橋で」、スコットランド民謡「ロッホ・ローランド」など明らかにふつうマザーグースの唄に入れないものも 含まれています。E. リアの「フクロと子猫」(表紙のイラストはこの歌)やM. ハウィットの「クモとハエ」などは何の注記もないので、 既にマザーグース化しているのだと思われます。今でも売れているということは、今でも歌われているメロディーだと考えられます。 あまり楽譜として見かけない、「針とピン」「ひとりの男が牧場へ干し草刈りに」「A、B、C、Tumble-down D」「戻ってこい、ウィッティントン」 なども載っています。歌によっては、歌い方やメロディーについての注記も付されています。
  白黒のシンプルなイラストも付いていて、「トム、トム、笛吹きの息子」では、盗んだ「豚」が自分と同じくらい大きくて、 ブタに結わえたヒモをつかんだトムの方が引っ張られています。

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6 ミルクのおかゆのかぞえうた  エマ・チチェスター・クラーク作・絵、評論社、1997
    Little Miss Muffet counts to ten   by Emma Chichester Clark, Andersen press Ltd., 1997

  ミス・マフェットが主人公の数え歌絵本。一種のパロディーです。翻訳では「小ちゃなかわいいおんなの子」ですが、原題を 見れば明らか。1匹のクモが「どうぞこのままここにいて」と頼み、2匹のキツネザルが吹き流しを持ってきて…と「10」まで進むと、 ミス・マフェットのためのびっくり誕生日パーティーでした、という話。
  イラストは、「ブルー・カンガルー」シリーズ(評論社)、「ちびくまくん」シリーズ(徳間書店)のほか、『時計ネズミの謎』 (P. ディキンソン作、評論社)や『竜の子ラッキーと音楽師』(R.サトクリフ作、岩波書店)の挿絵などの邦訳があるイギリスの絵本作家。
7 くつのおうち   コリン・マクリーン & モイラ・マクリーン作・絵、河合楽器製作所出版事業部、1998
    Shoe Cottage  by Colin & Moira Maclean, Kingfisher Books, 1989

  すくすく村には、マザーグースの唄の主人公たちがたくさん住んでいます。ミス・マフェットはお店を開いていますし、カボチャ の家には、ピーターが住んでいます。もちろん王様は、コール王です。靴のおうちには、おばあさんと21人の子どもたちが住んでいます。 ある日、みんなの靴のおうちのつま先に、穴があいてしまいました。つくろってもつくろっても糸が切れてしまいます。子どもたちは考えた 末、じゃっくさんにたのみにいきました。何をたのんだか、よーく考えるとわかりますよ!  じゃっくさんの家の庭には、大きな 豆の木がうわっています。
  「すくすくむらものがたり」シリーズとして、このほかに、『まふぇっとさんのおみせ』 (Muffet stores)、  『むらのゆうびんきょく』 (The post office) 、『かぼちゃのおうち』 (Pumpkin house) 、 『おうさまのしろ』 (Castle Cole) 、『なしのきのうえん』 (Pear tree farm) が訳されています。 楽譜が載っているわけでもないのに、河合楽器製作所出版事業部から出版されました。マクリーン夫妻の絵本としては初の翻訳。

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8 Dimity Dumpty  The story of Humpty's little sister
  Bob Graham作・絵 Candlewick Press, 2006

  卵人間のダンプティ一家がサーカスの軽業師で稼いでいる、というパロディー絵本。主人公は、ハンプティの妹ディミティ。 一家は、メンドリがひく馬車(?! 卵を入れるモールド)で旅から旅へ。兄のハンプティはやんちゃだが、ディミティはもの静か。両親と兄はサーカスのショウ に出ているが、ママのドロシィが「いっしょに来る?」と聞くたびに、ディミティは「ううん、いい。」と断わってきた。
  ある日、ハンプティがへいにいたずら描きしていて落ちたとき、馬をつれた兵隊たちがやってきたが「ただの卵だ」と無視。 ディミティが見つけ、助けを求めてサーカスへ。勇気を出してショウのスポットライトの中で、叫ぶ。
  ボブ・グレアムは、オーストラリア在住の絵本作家。『いぬがかいた〜い!』(評論社、2006。原書Let's get a Pup!, 2002)で、ボストングローブ・ホーンブック賞、オーストラリア児童図書賞(幼年部門)受賞。
9 The Adventures of the Dish and the Spoon
  Mini Grey作・絵 Alfred A. Knopf, 2006

  パロディー絵本。お皿とスプーンが駆け落ちする、マザーグースの唄のその後を描いた絵本。二人がたどり着いたのは、 アメリカのニューヨーク。ボードヴィル・ショーに出て有名になるが、お皿は稼ぎを自動車、宝石、毛皮に浪費(これを見ると、お皿が女)。 ショーの舞台はナイフとフォークに奪われ、借金を返せずギャングに捕まったお皿とスプーンは、銀行強盗を試み、指名手配。逃避行の末、 お皿は割れる。スプーンはつかまり、25年の刑期をつとめあげる(!!)。イギリスに送還されたスプーンは、古道具屋を住まいと定め、自ら 「バーゲン1/2d」と値札をかけていると…懐かしい声のすすり泣きが。再会した二人は、再び手に手をとって新しい世界へとかけだして いく…。
  最初と最後に、文章には出てこないが、古いレコードをプレーヤーにかけている、爪のある前足が描かれ、猫が二人を見ている 図式。おはなしは、スプーンの一人称で語られる。奥付は、「Hey Diddle Diddle」のレコードの新盤という体裁で、猫がサックス、 笑う犬がドラム、牝牛がキーボード。2007 The Kate Greenaway Medal (2006年度ケイト・グリーナウェイ賞)受賞作品。
10 Dear Mother Goose
  Michael Rosen文, Nick Sharratt絵 Walker Books Ltd., 2008

  2009年のマザーグース・ツアーのときイギリスで購入。ペーパーバックのパロディ仕掛け絵本。ある日、ハンプティ・ダンプティ は、いつも塀から落ちるのはもうやめたいと思い、マザーグースにアドバイスを求める手紙を書く。マザーグースの返事は、「エッグカップ を試してみては?」というもの。ハンプティの手紙の下半分が持ち上がるフラップになっていて、そこにハンプティ・ダンプティの唄の歌詞。 見開き右ページのイラストの下半分もフラップで、持ち上げるとエッグカップにすわっている、絆創膏だらけだが笑顔のハンプティが。
  同じように、ミス・マフェット、ジャックとジル、メイド、はしこいジャック、ハバードおばさん、メアリー・メアリーが 相談をもちかけると、現代的な解決が助言される。
  イラストは、「いたずらデイジー」シリーズ(ケス・グレイ作、小峰書店)の絵本や、ジャクリーン・ウィルソンのヤングアダルト 向け作品(理論社ほか)に挿絵を描いているニック・シャラット。
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