マザーグース学会第13回全国大会“馬”のマザーグース絵本展示
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“馬”のマザーグース絵本展示リスト
−イラスト比較−


   そもそも、英語には「馬」を表わす単語が多い。'horse', 'pony', 'mare', 'colt'…。'horse'にしても、農耕馬、 狩猟馬から、軍馬まで様々な馬がいる。軍馬で有名なのは、ハンプティ・ダンプティに出てくる騎兵の馬だろう。 "For want of a nail"の唄の馬も軍馬だ。農夫は'mare'に乗り、ヤンキーは'pony'に乗る。「馬」を表わす単語が出てこない「馬」の唄も ある。"This is the way the ladies ride"や"Is John Smith with in?"などがそうだ。歌う方も聞く方も自明の理、ということで、 イラストレーションには馬が描かれる。
   今回は、2014年が午年なのにちなんで「馬」をテーマにマザーグースのイラストの絵本を展示してみた。 英米人の生活にいかに馬がいろいろな形で関わっているかが、改めて感じられる。
   ※各唄に列記した絵本リストは、主なものを掲げた。 絵本の表紙画像は、オンライン書店楽天ブックスおよびアマゾン・ジャパンより。
 Ride a cock-horse to Banburry Cross  Humpty Dumpty sat on a wall  I had a little pony  A farmer went troting upon his grey mare  If wishes were horses
 I had a little husband  My mother said / That I never shoud / Play with the gipsies  This is the way the ladies ride Yankee Doodle came to town その他の“馬”のマザーグース


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Ride a cock-horse to Banburry Cross
   「馬」のマザーグースの中で最も多く出てくるのがこの唄。唄の主人公である子どもが乗る 「cock-horse」と、子どもが見に行く貴婦人の乗る「horse」の2種類の馬が出てくる。「cock-horse」の方は、揺り木馬(rocking-horse)の イラストと、棒馬(hobbyhorse)のイラストがある。イラストレーターは、子どもと貴婦人の両方を描く場合、揺り木馬は戸外に向かないので、 棒馬として描く。揺り木馬のイラストでは、子どもが貴婦人も兼ねて、鈴を付けているものもある。しかし、イラスト的には「手に指輪、 爪先に鈴」の貴婦人の方が映える。こちらを描いたものが圧倒的に多い。Mervyn PeakeRide a cock-horseは、この唄を本のタイトルとし、 白馬の貴婦人が表紙に描かれている。昔風のとんがり帽子をかぶった絵も多い。一方、W. Poganyは現代女性を描いている。
    珍しい例として、BriggsThe Mother Goose Treasuryで描くご婦人をあげておく。白馬の貴婦人は、 太めの庶民的なご婦人で、どうも全裸とおぼしい。これは、「白馬の貴婦人=ゴダイヴァ夫人」説によっているのだろう。
    なお、この唄のヴァリエーションで、白馬の貴婦人ではなく、白パンを買いに行く方の唄(RichardsonLong) も同時に展示している。
◆画家名、タイトル、発行年  <略称>  
◆Frederick Richardson絵、The Original Volland Edition Mother Goose、初版1915  <リチャードソン>  
◆B. F. Wright絵、The Real Mother Goose、初版1916  <ライト> ライト
◆Willy Pogany絵、Mother Goose、1928  <ポガニー>
◆Mervyn Peake絵、Ride a Cock-Horse And Other Nursery Rhymes、初版1940  <ピーク>
◆Tomie dePaola絵、Tomie dePaola's Mother Goose、1985  <デパオラ>
ベック
◆Arnold Lobel絵、The Arnold Lobel book of Mother Goose、1986  <ローベル>
◆Ian Beck絵、Ride A Cock-Horse Knee-Jogging Rhymes, Patting Songs & Lullabies、1986  <ベック>
レゴ
◆Paula Rego絵、Nursery Rhymes、1995  <レゴ>
◆Belinda Downes刺繍、A stitch in rhyme : a nursery rhyme sampler with embroidered illustrations、1996  <ドウンズ>
ロング
◆Sylvia Long絵、Sylvia Long's Mother Goose、1999  <ロング>

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Humpty Dumpty sat on a wall
   たいへん有名な唄だが、唄の最後の方に出てくる「horses」まできちんと描かれているイラストは 少ない。ほるぷの「復刻マザーグースの世界」に含まれる、Aliquisの折りたたみ式のパノラマ絵本Humpty Dumptyでは、 壮大なハンプティ救出作戦が描かれる。ハンプティのいた塀の左側に、延々と丘向こうに見えなくなるまで馬の列が続いている。 「king's horses」とあるだけに、王さま自ら救出作戦の陣頭指揮をとっている。たいていのイラストでは、落ちたハンプティを助けに来た 兵隊の乗馬として、付き添っているだけだ。Le MairOur Old Nursery Rhymesのイラストでは、気の毒そうに見下ろしてはいるが。 ちょっと変わったところでは、VoakeOver the Moonで描いた馬たちは、兵隊たちと共に作業台に向かって、ハンプティの切り貼り 復元作業に協力している。
◆Aliquis絵、Humpty Dumpty、1843  <アリキス>
ルメール
◆Henriette Willebeek Le Mair絵、Our Old Nursery Rhymes、初版1911  <ルメール>
◆Feodor Rojankovsky絵、The Tall Book of Mother Goose、初版1942  <ロジャンコフスキー>
◆Harold Jones絵、Lavender's Blue、初版1954  <ジョーンズ>  
◆Alice and Martin Provensen絵、The Mother Goose Book,、1976  <プロベンセン>
ヴォーク
◆Charlotte Voake絵、Over the Moon、1985  <ヴォーク>

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I had a little pony
   ダプル・グレイというポニーの名前は、ポニーの毛色から来ている。'dapple-gray'という語は「灰色に黒または 濃い灰色のまだらのある」という意味で、毛色の名称としては「連銭葦毛」のこと。B.F.WrightBriggsVoakeも灰色または白に まだら模様の馬だが、Tomie dePaolaだけは茶色の馬。
   また、この唄は、「Lady」に貸したのに、Ladyらしからぬ乗り方をされて憤慨する内容だが、Voakeは、 Over the Moonで、唄のストーリーに合わせて5画面に描く。Briggsの描くLadyは、ここでも異色で、服装が現代的なのはともかく、 ご面相がまるで「赤鬼」である。
◆Ramond Briggs絵、The Mother Goose Treasury、1966  <ブリッグズ>
フォアマン
◆Michael Foreman絵、Michael Foreman's Mother Goose、1991  <フォアマン>
◆<ライト>  
◆<ポガニー>
デパオラ
◆<ジョーンズ>
◆<デパオラ>
◆<ヴォーク>  

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A farmer went troting upon his grey mare
   この唄は、Caldecottが"Ride a cock-horse to Banbury Cross"と合本で絵本にしている。この絵本の復刻が 福音館書店から出版されており、吉田新一氏の解説によると、馬に乗って市に出かける農夫と娘は不相応に気取っている。徒歩で市に 出かける近所の女衆のひんしゅくを買い、そのうちの一人が道ばたの道標にとまるカラスをたきつけて、カラスが馬を脅かすこととなる。 とまあ、コルデコットはイラストでこの唄の歌詞にないドラマを描き出している、ということだ。絵になりやすいせいか、わりと大きめの イラストも多い。日系イラストレーターのGyo FujikawaMother Gooseでは、たいへん派手に落馬中の農夫と娘が描かれている。
◆Randolf Coldecott絵、Ride A-Cock Horse to Banbury + & A Farmer Went Trotting Upon His Grey Mare、1881  <コルデコット>
コルデコット
◆Gyo Fujikawa絵、Mother Goose、初版1969  <フジカワ> フジカワ
◆<リチャードソン>
◆<ジョーンズ>
◆<ヴォーク>

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If wishes were horses
   馬に乗っているのが'begger'に見えない絵が多い。BriggsLobelの男はつぎはぎの服だが、Will Mosesが描く Mother Gooseの男はいい身なりだし、Jonesの絵では騎手に見える。B.F.Wrightに至っては、とんがり帽子をかぶっていて、 違和感がある(The Real Mother Goose)。変わったイラストでは、Atkinsonが、馬に乗った鋳掛けや(男の代わりに猫だが) を描いているもの(Mother Goose's Nursery Rhymes)があるが、これは、一緒に扱われることが多い「If 'ifs' and 'ands' were pots and pans」 という唄も同時に描いているため。
   また、唄の後半の「カブが時計なら」の部分は絵にしにくいと思ったが、JonesLavender's Blueでは カラーでカブと懐中時計が描かれている。また、MosesとLobelでは、別の男が懐中時計を腰に下げている。
   なお、絵本ではないが、この唄をタイトルにしたファンタジー作品に、アン・マキャフリーの『もしも願いがかなうなら』(創元推理文庫)がある。
◆<ライト>  
◆<ジョーンズ>  
◆<フジカワ>
モーゼズ
◆Allen Atkinson絵、Mother Goose's Nursery Rhymes、初版1984   
◆<ローベル>
◆Will Moses絵、Mother Goose、2000  <モーゼズ>
マキャフリー
◆アン・マキャフリー作『もしも願いがかなうなら』創元推理文庫、2006   

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I had a little husband
   この唄は、「Tom Thumb」などの小人の系譜の唄なのだろうが、イラストにすると、なぜか妻が大女に見える。LobelThe Arnold Lobel book of Mother Gooseで1ページいっぱいに着飾った妻を描く。テーブルの上の「小さな夫」はやや親指より 大きい。夫に与えた「馬」はコックホースで、テーブルの下の床に小さく見捨てられている。Peake (Ride a cock-horse)と Oxenbury (The Helen Oxenbury's Nursery Rhyme Book)では、妻は手先しか出てこない。いずれの夫も親指より大きいが、 生きた馬にまたがっている。
◆Helen Oxenbury絵、The Helen Oxenbury's Nursery Rhyme Book、初版1986  <オクセンベリ>
ピーク
◆<ピーク>
◆<ローベル>

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My mother said / That I never shoud / Play with the gipsies
   ジプシーと遊んではいけないと言われた少女が、馬に乗って家出をする唄。BriggsThe Mother Goose Treasury では、いかにも家出という感じで、粗末な身なりの少女が鞍もおかず、裸足で疾走する絵。ただし、「blind white horse」という歌詞だが 馬の目は開いている。一方、Voakeが、Over the Moonで描くのは対照的に、明るい絵。少女は麦わら帽子にピンクのパラソルまでさし、 ショールにしゃれた靴もはいている。後ろ向きなので、馬の目は描かれていない。日本の金子ふじ江も『イギリスのわらべうた』で この唄にイラストを付けている。馬の目には、ブリンカー(馬用の目隠し)が描かれている。
   なお、この馬の値段は、いずれも「10シリング」だが、Petra Mathersが描くThe McElderry book of Mother Goose (2012)では、「2シリング」に値下げされていた。この本では、少女は少年と二人乗りで、ブリンカーを付けた馬に乗っている、という点でも変わっている。
◆金子(山内)ふじ江絵、『イギリスのわらべうた』さ・え・ら書房、1969   
ブリッグズ
◆<ブリッグズ>
◆<ヴォーク>
Mathers
◆Petra Mathers絵、The McElderry book of Mother Goose、2012   

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This is the way the ladies ride
   単語としての「馬」は出てこないが、れっきとした(?)馬の唄。Briggsでは、オーソドックスな'ladies', 'gentlemen', 'farmers', 'huntsmen'に加えて'ploughboys'も描かれている。この唄は、遊ばせ唄なので、お母さんが椅子に座り、片足に男の子を乗せて 遊んでいるイラストもある。 Jones (Lavender's Blue)やProvensen (The Mother Goose Book)でも、 馬に乗った'ladies', 'gentlemen', 'farmers'のイラストと別に、お父さん(お祖父さん?)が小さな男の子とお馬遊びをしている絵が 描かれている。
   変わった解釈のイラストとしては、Tomie dePaolaTomie dePaola's Mother Gooseの中で「馬」を すべてcock-horseとして描いたものがあげられるだろう。
◆Brian Wildsmith絵、Mother Goose、初版1964  <ワイルドスミス> ワイルドスミス
◆<ジョーンズ>
◆<デパオラ>
プロベンセン
◆<プロベンセン>

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Yankee Doodle came to town
   いかにもアメリカらしい唄。LobelThe Arnold Lobel book of Mother Gooseで、ポニーに乗った男に、 星が13個の星条旗を持たせている。ただポニーに見えない。DownesA stitch in rhymeのイラストで、ポニーの鞍を 星条旗柄に描いている。また、Yankee Doodleが帽子に付けている羽も緑色だったりオレンジ色だったり、鮮やかに描かれているものが多いが、 いずれもかなり長い。'macaroni'が「長い」という感じはしないが、英米人の無意識のイメージに「長〜い羽」がすり込まれているのかもしれない。
   「ヤンキー・ドゥードゥルごっこ」をしている子どもの絵もある。FujikawaMother Gooseの中で描く男の子は、 オレンジの羽をさした新聞紙の帽子をかぶっている。Le MairOur Old Nursery Rhymesで描くYankee Doodleも少年だが、 遊んでいるふうでもなく、海辺の崖道を上っていく後ろ姿で、異色な感じ。
◆<ポガニー> ポガニー
◆<ブリッグズ>
◆<デパオラ>
◆<フジカワ>  
◆<ローベル>
ドウンズ
◆<フォアマン>
◆<ドウンズ>

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その他の“馬”のマザーグース
Bell horses, bell horses

◆<ローベル>

◆<プロベンセン>
ローベル
For want of a nail the shoe was lost

◆<ジョーンズ>

◆<プロベンセン>
ジョーンズ
I saw a fishpond all on fire
  …この唄は、展示していません。ホームページのみのおまけです。 「燃えている池」に始まり、あり得ない風景の連続のなか、「レース編みする馬」が出てきます!  Briggsの描く馬たちは、 椅子にこしかけて、真面目にレース編みしていますが、Mathersの馬たちは、レースをこんがらがせてしまい、困惑しているようです。
◆<ブリッグズ>

◆Petra Mathers絵、The McElderry book of Mother Goose、2012
Is John Smith with in?

◆<リチャードソン>

Robin and Richard

◆<ブリッグズ>
リチャードソン
Shoe a little horse
◆<ロジャンコフスキー>  ※Shoe the colt

◆<ジョーンズ>

◆<フジカワ>
 
There was a mad man

◆<ブリッグズ>

The three jovial huntsmen

◆Randolph Caldecott絵、The three jovial huntsmen、初版1880  ※画像は、電子書籍(参考)

Caldecott
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