エドワード・リア Edward Lear
エドワード・リア (1812〜88) は、『ナンセンスの絵本』 (1861) などで知られたリメリック (a-a-b-b-aと韻を踏む五行の戯れ唄) の名手である。イラストも自ら描いた。本書のような戯画だけでなく、風景画や細密画も描いたそうである (『完訳ナンセンスの絵本』柳瀬尚紀訳、岩波文庫、2003 の巻末「解説」より) 。
このリアによるマザー・グースの唄のイラストは、オーピーのThe Oxford Dictionary of Nursery Rhymes (1951) によると、「John Addington Smithの母」のために描かれたもので、Angus Davison, Esq. のコレクションに含まれているものらしいが、制作年については不明。
このリアのネコも左利きである。また、クレインの猫と同じように、フィドルをチェロのように支えて弾いている。猫とフィドルの実際の大きさを考えると、このくらいのバランスかもしれない。
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The Oxford Dictionary of Nursery Rhymrs より
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竹友藻風
竹友藻風 (1891〜1954) は、詩人でもあり、英文学者でもあった。藻風のマザー・グースの翻訳は、『世界童話大系 17 世界童謡集 上 諸国童謡集』(世界童話大系刊行会、1925)内の「英国童謡」に287篇も収録されている。この「Hey diddle diddle」の唄は、その9番目に「猫が胡弓(こきう)で」と題して掲載されている。(総ルビ)
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猫が胡弓でトチツルテン、
牝牛が月を跳び越えた、
小犬がそれ見て吹き出した、
皿と匙とが驅落だ。
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また、昭和4年(1929)に出版された『MOTHER GOOSE'S NURSERY RHYMES 英國童謡集』 (研究社英文譯註叢書) には、131篇収録されている。124篇が『諸国童謡集』からの再録だが、多少の訂正と、英語学習者向けの訳注が付けられている。「猫が胡弓で」は、次のようになっている。(ルビは「かけおち」のみ)
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猫が胡弓でトチツルテン、
牝牛が月を跳び越えた。
小犬がそれ見て噴き出した、
皿と匙とが驅落だ。
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訳注として、
「この謡の原型はRitsonのGammer Gurton's Garland(c.1783)に現はれた。Lina Eckensteinは多分Twelfth Night(一月六日の夜)の宴遊に言及したものであろうと言つてゐる。
Hey, diddle, diddle “diddle, diddle”は胡弓の音。」 となっている。
この本には、初山滋(1897-1973)の白黒イラストも付けられている。中央の木の台の上には、胡弓(マンドリンのような形)を弾いている猫が立ち、右上に月を飛び越えようとしている牛、左下に台に前足をかけて立ち上がっている犬(笑っていない)、右下には手足の生えた匙と皿が描かれている。匙は帽子をかぶり、皿はスカートをはいて、見つめ合って手をつないでいる。(この段落2013.3月追記)
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昭和34(1959)年の再刊では、矢本貞幹、藤井治彦連名で「このたび、新らしく出版することになったので、かなづかいを改め、むつかしい漢字を使った語句をやさしくかきなおし、できるだけ親しみやすいものとした。」とあり、次のように書き改められている。(ルビは「かけおち」のみ)
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猫が胡弓でトチツルテン、
牝牛が月をとび越えた。
小犬がそれ見て吹き出した、
皿とさじとが駆落(かけおち)だ。
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