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Hey Diddle Diddle
The cat and the fiddle
― イラストと邦訳 ―


  このホームページ「フィドル猫(キャット)の部屋」の テーマライムである、マザー・グースの唄「ヘイ、ディドル ディドル、猫にフィドル」について、 いろいろなイラストや様々な訳を紹介します。   ★この他の解釈や引用、邦訳リスト、グッズなどの紹介は「まめ知識」のページ へどうぞ。

※ 参考文献・『マザーグースイラストレーション事典』夏目康子・藤野紀男編著、柊風舎、2008
                   『マザーグースと絵本の世界』夏目康子著、岩崎美術社、1999
                   『解説』〈復刻世界の絵本館オズボーン・コレクション〉ほるぷ出版、1979
                   『解説』〈復刻マザーグースの世界〉ほるぷ出版、1992
目次
アルフレッド・クロウキルのイラスト ウォルター・クレインのイラスト
日本最初のイラストと邦訳 チャールズ・ベネットのイラスト
エドワード・リアのイラスト 北原白秋の訳
竹友藻風の訳
ランドルフ・コルデコットのイラスト


アルフレッド・クロウキル Alfred Crowquill

  アルフレッド・クロウキルは、アルフレッド・ヘンリー・フォスター (1804〜1872) のペンネーム。クロウキルは、『パンチ』『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』などにも挿絵を描いていた。

  このイラストは、1865年にロンドンのネルソン&サンズ社から出版された、 Nursery Rhymes No.3 に掲載されたもの。猫は、燕尾服のような赤い上着、黄色いズボンに帽子までかぶり、めかしこんでいる。三日月は、芝居の道具のように弧を下にして背景の夜空に浮かび、牛は、サーカスの曲芸よろしく円弧に身を躍らせている。皿には、やせ細った首と胴体、手足が生え、上にスプーンを乗せて、遠景の山並みまたは空中を走っている。
  添えられた歌詞は、オーピーのものとだいぶ異なる。

  Hey! diddle diddle,
  the cat and the fiddle,
  The cow jumped over the moon.
  The little the dog, he
  Said " Fiddle-de-dee,
  I'll dance all afternoon."
  " One day is too short
  For enjoying such sport,"
  Said the dish who ran off with the spoon.
  The dog laughed as he
  Sang " Fiddle-de-dee."
  Then fiddling Pat,
  The Kilkenny cat,
  Said, " Doggie, I guess,
  You laugh at my dress,
  I will get a much better one soon."

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ウォルター・クレイン Walter Crane

  このイラストは、1877年にロンドンのラウトリッジ&サンズ社から出版された、The Baby's Opera の表紙に描かれたもの。ウォルター・クレイン (1845〜1915) は、出版者兼版画家のエドマンド・エヴァンズが、子ども向けに美しくデザインされた本を出すために招いた画家の一人だった。クレインは、1867年に知人から広重や北斎の版画集を贈られ、その影響がこの絵にも見られる。

  画面中央の、駆け落ちしようとしているスプーンの女性が手にしているのは、扇だし、お皿の男性は、中国服のようだが、木の花の柄の上着、袴、とがった爪先が巻き上がった靴をはき、竹の籠を持っている。お皿の顔になっている模様も、東洋の塔のようだ。

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日本最初のイラストと邦訳

  このイラストは、1909(明治42)年2月の『正則初等英語』1巻2号の巻頭口絵に掲載されたもの。現在、判明している、最も早い時期のイラストと訳である。挿絵画家、訳者は不明。しかし、スカートをはいた牝牛が三日月を馬跳びしている構図や、帽子をかぶって二本足で立っている小犬は、チャールズ・ベネットのOld Nurse's Book of Rhymrs, Jingles and Ditties (1858) に掲載されているものに酷似している。

  添えられた訳文と原詩は以下の通り。これまたオーピーのものとはだいぶ異なる。ふつう、韻を踏むためには意味がナンセンスになるのもいとわないのがマザー・グースの唄の特徴なのに、原詩後半がまったく韻を踏んでいないところが、たいへんあやしい。

  猫が三味ひくチントンシヤン
  牛は浮かれて月を跳び越へ、
  馬も躍れば鼠よろこび、
  鶏嬉れしさに駆け出して、
  犬はおかしさに笑ひ出した

  Hey diddle diddle,
  the cat and the fiddle,
  The cow jumped over the moon;
  The horse danced,
  the rat rejoyced;
  The cock ran away with delight;
  And the dog laughed to see such sport.




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チャールズ・ベネット Charles Bennett

  チャールズ・ベネット (1829〜1867) は、初め雑誌の挿絵画家だった。動物のキャラクターを人間に置きかえて描くことに長けていた。このイラストは、1858年に出版されたOld Nurse's Book of Rhymes, Jingles and Ditties に付けられたもの。

  猫は気むずかしい顔をして、あぐらをかいてフィドルを奏でている。遠景で軽やかに月を馬跳びしている牛は、左右の向きと色の白黒を差し引いても、『正則初等英語』のイラストとの相似ははっきりしている。

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北原白秋

  北原白秋 (1885〜1942) の数多くの詩作の中で、マザー・グースの唄の翻訳は、初期の仕事になる。単行本としては日本で初めての翻訳集である『まざあ・ぐうす』 (アルス、1921) の中で、巻頭詩「母鵞鳥(マザア・グウス)の歌」、中扉、「駒鳥のお葬式(ともらひ)」に次いで3番目に掲載されているのが、この唄である。
  この唄の訳は、初め雑誌『赤い鳥』4巻4号 (1920(大正9)年4月) に「月の夜」と題して発表された。

  ぴよつこりぴよつこり、ぴよつこりしよ。
  猫が胡弓弾いた。
  女牛がお月様飛び越えた。
  小犬がそれ見て笑ひ出す。
  お皿がお匙を追つかけた。
  ぴよつこりぴよつこり、ぴよつこりしよ。


  1921(大正10)年、アルスから出版された単行本『まざあ・ぐうす』では、 題名は「お月夜」となり、訳も次のようになっている。

  ひよっこり、ひよっこり、ひよっこりしよ。
  猫が胡弓弾いた。
  牝牛がお月様飛び越えた。
  小犬がそれ見て笑ひ出す。
  お皿がお匙を追つかけた。
  ひよっこり、ひよっこり、ひよっこりしよ。


  次いで、同じアルスから出版された『白秋全集』の第10巻「童謡集 第二」 (1930(昭和5)年発行) では、こうなっている。題名は「お月夜」で変わらず。

  へっこら、ひよっこら、へっこらしよ。
  猫が胡弓弾いた、
  牝牛がお月様飛び越えた、
  小犬がそれ見て笑ひ出す、
  お皿がお匙を追つかけた。
  へっこら、ひよっこら、へっこらしよ。


  現在、最も普及している、角川文庫 (初版1976(昭和51)年5月) に掲載されているものは、底本が記載されていないが、次のようになっている。上記アルス全集版までは、白秋本人による変更だが、この角川文庫版の問題は、いったい、どこの誰が、どういう趣旨で、仮名遣いや漢字をひらがなに変更したりしたのかが不明なことである。題名は「お月夜」のまま。

  へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。
  ねこが胡弓(こきゅう)ひいた、
  めうしがお月さまとびこえた、
  こいぬがそれみてわらいだす、
  お皿がおさじをおっかけた。
  へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。


  なお、この角川文庫版には、絵本作家のスズキコージ (鈴木康司) のイラストがついており、満月を跳び越えている牛は、まんまるに太っている。猫の弾くフィドルも丸くてマンドリン風。左前足に弓を持っている。小犬は後ろ向きのシルエットで、前足を手のように広げ後ろ片足で踊っている。リボンをつけたお皿がスプーンを追いかけている。

  また、同じ角川書店から出たハードカバーの『まざあ・ぐうす』 (1976.11) にもスズキコージはイラストを描いている。こちらはカラーで、贅沢に一ページ使用。牛は白黒まだらになり、猫はチェックの柄のチョッキを着ている。フィドルはやっぱりマンドリン風で弓は左前足。犬は狼風になり、そばにはなぜか黒いものを山盛りに積んだ手押し車が。お皿はリボンに加えスカートもはいて、帽子をかぶったスプーンを追いかけている。満月の背景は夜空というより水たまりのようで、よく見ると、犬の傍らの小瓶の口から立ち上っている。

※ 参考文献・藤野紀男著『名作マザーグース70選』(三友社出版、1989)
        『白秋全集 25 童謡集1』(岩波書店、1987)


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エドワード・リア Edward Lear

  エドワード・リア (1812〜88) は、『ナンセンスの絵本』 (1861) などで知られたリメリック (a-a-b-b-aと韻を踏む五行の戯れ唄) の名手である。イラストも自ら描いた。本書のような戯画だけでなく、風景画や細密画も描いたそうである (『完訳ナンセンスの絵本』柳瀬尚紀訳、岩波文庫、2003 の巻末「解説」より) 。
  このリアによるマザー・グースの唄のイラストは、オーピーのThe Oxford Dictionary of Nursery Rhymes (1951) によると、「John Addington Smithの母」のために描かれたもので、Angus Davison, Esq. のコレクションに含まれているものらしいが、制作年については不明。

  このリアのネコも左利きである。また、クレインの猫と同じように、フィドルをチェロのように支えて弾いている。猫とフィドルの実際の大きさを考えると、このくらいのバランスかもしれない。





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        The Oxford Dictionary of Nursery Rhymrs より
竹友藻風

  竹友藻風 (1891〜1954) は、詩人でもあり、英文学者でもあった。藻風のマザー・グースの翻訳は、『世界童話大系 17 世界童謡集 上 諸国童謡集』(世界童話大系刊行会、1925)内の「英国童謡」に287篇も収録されている。この「Hey diddle diddle」の唄は、その9番目に「猫が胡弓(こきう)で」と題して掲載されている。(総ルビ)
  猫が胡弓でトチツルテン、
  牝牛が月を跳び越えた、
  小犬がそれ見て吹き出した、
  皿と匙とが驅落だ。


  また、昭和4年(1929)に出版された『MOTHER GOOSE'S NURSERY RHYMES 英國童謡集』 (研究社英文譯註叢書) には、131篇収録されている。124篇が『諸国童謡集』からの再録だが、多少の訂正と、英語学習者向けの訳注が付けられている。「猫が胡弓で」は、次のようになっている。(ルビは「かけおち」のみ)
  猫が胡弓でトチツルテン、
  牝牛が月を跳び越えた。
  小犬がそれ見て噴き出した、
  皿と匙とが驅落だ。


  訳注として、
「この謡の原型はRitsonのGammer Gurton's Garland(c.1783)に現はれた。Lina Eckensteinは多分Twelfth Night(一月六日の夜)の宴遊に言及したものであろうと言つてゐる。
  Hey, diddle, diddle  “diddle, diddle”は胡弓の音。」
となっている。
  この本には、初山滋(1897-1973)の白黒イラストも付けられている。中央の木の台の上には、胡弓(マンドリンのような形)を弾いている猫が立ち、右上に月を飛び越えようとしている牛、左下に台に前足をかけて立ち上がっている犬(笑っていない)、右下には手足の生えた匙と皿が描かれている。匙は帽子をかぶり、皿はスカートをはいて、見つめ合って手をつないでいる。(この段落2013.3月追記)
  昭和34(1959)年の再刊では、矢本貞幹、藤井治彦連名で「このたび、新らしく出版することになったので、かなづかいを改め、むつかしい漢字を使った語句をやさしくかきなおし、できるだけ親しみやすいものとした。」とあり、次のように書き改められている。(ルビは「かけおち」のみ)
  猫が胡弓でトチツルテン、
  牝牛が月をとび越えた。
  小犬がそれ見て吹き出した、
  皿とさじとが駆落(かけおち)だ。



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ランドルフ・コルデコット Randolf Caldecott



  ランドルフ・コルデコット (1846〜86) は、イギリスのチェスター生まれ。15歳で学校を卒業すると銀行で働くかたわら、スケッチや雑誌の挿絵を描いていた。上掲のイラストは、エドマンド・エヴァンズが手がけ、1シリングで売られたトイブックのシリーズとして、1882年に出版されたHey Diddle Diddle and Baby Bunting (ラウトリッジ社)に描かれたもの。

  左の図版では、子どもたち相手にトラ猫がフィドルを弾いている。踊る子どもたちの一番手前に描かれているのは、お人形のようだが、人形が踊っているのに、奥で立っているメイドさんは平然としている。
  中央の図版では、屋外で動物たち相手に演奏している。いつの間にか赤い上着を着ているが、間にここに掲げなかった線描のイラストがあり、そこでは、トラ猫がちょっとキツ目の上着を着て「どうだ」という感じでそっくりかえり、女房らしい猫が「すてきよ」とでも言うように子猫たちとともに見守っている。
  右の図版では、猫が深夜、人間の寝静まった屋内で、食器相手に音楽を奏でている。イラストレーターの焦点は、猫より「駆け落ちするお皿とスプーン」に当てられている。実は、この後にコルデコットが付け加えたオチがあり、お皿とスプーンが仲良く並んで腰掛けて語らう場面と、詩句にはない、お皿が割れて倒れ、スプーンはフォークとナイフにつきそわれて立ち去る場面が描かれている。現代の感覚でも吹き出すほどおかしく、この唄のイラストでは、最高傑作だと思う。

  コルデコットのイラストについては、吉田新一氏がくわしい。(『コールデコットの絵本 解説書』福音館書店 2001、『絵本/物語るイラストレーション』日本エディタースクール出版部 1999)コルデコットは、このナンセンスの唄に「時間」経過を描き込むことで、「センス」を導入したという読み方を示している。

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