HOME MG Book Soccer Propile


「Hey Diddle Diddle, The Cat and The Fiddle」まめ知識


  このページでは、この唄についての、さまざまな情報を出典を示しつつ書き込みます。(2013.1)
  この唄に関わる研究論文についての項目を加えました。
また、「日本での翻訳」「研究論文」「引用とパロディー」について、さらに詳しい情報を書き込んだページ 「もっと知りたい『「Hey Diddle Diddle, The Cat and The Fiddle』」のページを作成中です。 まだ未完成ですが、興味のある方は、ぜひお立ち寄りください。(2015.11)
  New! 日本での翻訳に、新しく2例加えました(2019.5)
    目次
もっともナンセンスな唄
起源
解釈さまざま
歌詞いろいろ
人気
日本での翻訳 New! 
研究論文
引用とパロディー
ねこのイラスト
絵本のタイトル
グッズ
    Hey diddle diddle,
    The cat and the fiddle,
    The cow jumped over the moon;
    The little dog laughed
    To see such a sport,
    And the dish ran away with the spoon.

The Oxford Nursery Rhyme Book より


もっともナンセンスな唄

  このホームページのタイトルになっている、このマザーグースの唄は、オーピー夫妻のThe Oxford Dictionary of Nursery Rhymes (1951)(略称ODNR)の中で、 「Probably the best-known nonsense verse in the language, a considerable amount of nonsense has been written about it.」 と書かれたこともあり、「最もよく知られたナンセンスな唄」という枕詞をいただいている。
  この一文の後半に、「この唄について書かれたナンセンスも、かなりの量にのぼる。」と加えられている。 「解釈」参照。
起源

  上記ODNRでは、1569年に印刷された戯曲の中に「They can play a new dance called hey-didle-didle.」という 一文があることを紹介しているので、元は16世紀のダンス曲だったのかもしれない。
目次へ
解釈さまざま

  この唄の歌詞が何を意味しているのか、さまざまな解釈がされてきた。ODNRにあげられているものでは、
 ハリウェルの説。冒頭の「Hey Diddle Diddle」は古代ギリシャの神託詩の言葉が崩れたものに由来すると考えていたが、 1853年版(※)の本ではこの見解を削除した。
※1942年版(=初版)のハリウェル編 The Nursery Rhymes of England にも、既にそのコメントはない。(フィドル猫註)
 エジプト神話。牝牛の頭を持つハトル神は、天空の女神。
 ナイル川の水位上昇を示す星座の位置を描写。「小犬=おおいぬ座」「バイオリン弾き=こがねむし」「月を飛び越す牝牛=天空」。
 エリザベス女王とレディ・キャサリン・グレイとレスター伯。
 「Cat and the fiddle」の部分は、(1)「キャサリン・ラ・フィデル」と呼ばれたキャサリン・オブ・アラゴン(ヘンリー 8世の最初の王妃) (2)ピョートル大帝の妻だったキャサリン (3)「カトン・ル・フィデル」と呼ばれたカレーの知事カトン
 「猫」は、昔の宿屋で行われていたゲーム「トラップ・ボール」で、「フィドル」は宿屋での音楽のサービスを指す。

  その他、ベアリングールド夫妻のThe Annotated Mother Goose (1962)(略称AMG)では、 上記4をもう少し詳しく、解説している。
 「猫」はエリザベス1世で、猫がネズミを扱うように廷臣たちをとりさばいたからだという。キャサリン・E. トーマス(*1)の 「48という齢で、『猫』が個室で最愛のヴァイオリンの調べにのって浮き浮きと踊っている」という文章も引用されている。
*1 The Real Parsonages of Mother Goose (1930) の著者。
  「小犬」は、女王が一時は結婚を考えたというレスター伯ロバート・ダドリー。「皿」は公式の大広間に金の皿を運ぶ 名誉職の正式な肩書きだった。したがってその役目だったハートフォード伯エドワードが「皿」で、女王の食事の毒味役だった レディ・キャサリン・グレイが「スプーン」。この二人はひそかに結婚したらしい。
 ベアリングールド夫妻の本には、ジョン・B. カー(*2)の説も紹介されている。それによれば「この歌はローマカトリック教の 僧侶たちが労働者階級をもっと苛酷に働かせようとしていることをほのめかしている。」
*2 An Essay on the Archaeology of Our Popular Phrases and Nursery Rhymes (1834) の著者。オーピー夫妻が、カーの本のことを 「見当違いの努力の最も顕著な例」と断定していることもベアリングールド夫妻の本には書かれている。

※この項の参考文献
The Oxford Dictionary of Nursery Rhymes, by Iona & Peter Opie, Oxford University Press, 初版1951
The Annotated Mother Goose, by Willliam S.& Ceil Baring-Gould, Bramhall House, 1962
目次へ
歌詞いろいろ

  ODNRによれば、以下のようなヴァリエーションが紹介されている。
  初出は、Mother Goose's Melody (1765頃の出版とオーピー夫妻はしているが、1780年らしい)。 このホームページに掲げている詩句は、ODNRから採っている。その歌詞と初出の歌詞の主な違いは、(1)冒頭の「Hey」が 「High」、(2)5行目の「sport」が「craft」になっていることの二つ。
  1784年初版のGammer Gurton's Garland では、歌い出しが「Sing hey diddle, diddle」になっている。
  1790年頃の楽譜The Favourite Juvenile Song of Heigh Diddle Diddle では、後半が「the little Dog barked to see sport and the Maid ran away with the Spoon.」となっている。
※犬が「吠える」のでは、ちっとも面白くない。「改良版」として「牝牛が月の下を跳んだ」という書き換えも行われた ようだが、これも面白味がないため、生き残らなかった。(フィドル猫註)
  1797年のInfant Institutes では、最後が「And the dish lick't up the spoon.」となっている。
※「お皿がおさじをなめつくす」このヴァリエーションは、なかなか笑える。(フィドル猫註)
  1824年のBlackwood's では、「the goats jumped over the moon … the cat ran away with the spoon.」。
※山羊が跳ぶ方が不自然じゃないかも?! (フィドル猫註)

  また、北原白秋が参考にした、どれかの本のように最後が「the dish ran after the spoon.」となっている例もある。 今、手元の本では、チャールズ・H. ベネット編・絵のOld Nurse's Book of Rhymes, Jingles and Ditties (1858)と、 Aunt Mary's Nursery Rhymes (1866)がそうだ(いずれも、ほるぷ出版の復刻シリーズ)。ベネットのイラストでは、スカートを はいたスプーンを、茶碗の帽子をかぶったお皿が両手を広げて追いかけていて、ちょっと恐い。後者は、猫と犬は服を着ているが、 皿とスプーンは着ておらず、足だけある。どちらが男か女か区別できない。ベネットの前者のイラストについては、 「Hey Diddle Diddle, The cat and the fiddle ― イラストと邦訳 ―」のページ参照。
目次へ
人気

  アメリカ人78人へのアンケート結果が『大人になってから読むマザー・グース』(*3)に出ている。「質問4・記憶しているすべての 唄の中で、最も好きな唄」への回答として、1位:「Mary had a little lamb」28人、2位:「Hey, diddle, diddle」13人、 3位:「Humpty Dumpty」11人。以下、「There was an old woman lived in a shoe」8人、「Jack and Jill」7人、「Twinkle, twinkle little star」6人など、全体で43篇があげられている。*3 加藤恭子、ジョーン・ハーヴェイ共著『大人になってから読むマザー・グース』 (PHP研究所、1999)、pp.176〜198
  アメリカ人の「最も好きな唄」第2位の座を占めている。

  ちなみに、イギリス人67人へのアンケートが「イギリス人のナーサリーライム温度」(井田俊隆著、『マザーグース研究』第8号 (マザーグース学会、2008)pp.46〜64)に出ているが、その中で「あなたの最もお気に入りのライム」という質問には、
1位:「Twinkle, twinkle little star」7票、2位:「Humpty Dumpty」5票、3位:「Baa, baa, black sheep」 「Pat-a-cake, pat-a-cake」「Oh, the brave old Duke of York」各4票という結果となっている。こちらではベスト3にも入っていない。 ちょっと残念。

  さて、実際の絵本には入っているか、33冊の英米の絵本(イギリス22冊、アメリカ11冊)を調べてみた。すると、
1位:「Humpty Dumpty」(26冊)、2位:「Baa, baa, black sheep」(24冊)、3位:「Hey diddle, diddle」(23冊) という結果が出た。
 英米の別では、イギリスの絵本ベスト3:「Humpty Dumpty」(17冊)、「Baa, baa, black sheep」「Hey diddle, diddle」 (各16冊)。
 アメリカの絵本ベスト3:「There was an old woman who lived in a shoe」(10冊)、「Diddle, diddle, dumpling, my son John」 「Humpty Dumpty」「Jack Sprat」「Little boy blue」「Little Miss Muffet」「Mary, Mary, quite contrary」(各9冊)とはっきり分かれた。
 絵本ではイギリスでの人気が高いという結果となった。
目次へ
日本での翻訳 New!    「もっと知りたい」ページへ

  本邦初訳は、現在わかっているところでは、1909(明治42)年2月の『正則初等英語』第1巻第2号の巻頭の口絵に添え られたもの。ただし、訳者不明。掲載されている原詩がかなり変型なので、訳もそれに従っている。詳しくは、 「Hey Diddle Diddle, The cat and the fiddle ― イラストと邦訳 ―」のページ参照。
  わかっている範囲で、古い順に列記してみる。複数訳がある訳者は、確認できた限りで一番早いものを採った。
1917(大正6)年1月 [訳者不明]『幼年園』2巻1号 培風館
・1920(大正9)年4月 北原白秋『赤い鳥』4巻4号
・1925(大正14)年4月 竹友藻風『世界童話大系 17 世界童謡集 上 諸国童謡集』世界童話大系刊行会
・1925(大正14)年12月 松原至大『マザアグウス子供の唄』春秋社
1946(昭和21)年 藤田圭雄『赤とんぼ』第3号 実業之日本社
・1955(昭和30)年 野上彰『世界少年少女文学全集 32 世界童謡集 訳詞編』東京創元社
・1961(昭和36)年 佐藤義美『世界童話文学全集 18 世界童謡集』講談社
・1962(昭和37)年7月 吉竹迪夫『英・米わらべうた まざー・ぐーす』開文社
1975(昭和50)年 谷川俊太郎『スカーリーおじさんのマザー・グース』中央公論社
・1976(昭和51)年6月 岸田理生『マザーグースの絵本 1 だんだん馬鹿になってゆく』新書館
・1976(昭和51)年9月 平野敬一『マザー・グース イギリスのわらべうた』ほるぷ出版
・1976(昭和51)年11月 原田治『オサムズ マザーグース』ダスティミラー
・1977(昭和52)年 長谷川四郎『マラルメ先生のマザー・グース』晶文社
・1978(昭和53)年2月 寺山修司『マザー・グース 2』新書館
・1978(昭和53)年11月 由良君美『マザーグースのうたがきこえる』ほるぷ出版
・1978(昭和53)年12月 星野徹『マザーグースのかあさん』集英社
1980(昭和55)年 アン・ヘリング『ハンプティ・ダンプティの本』集英社
・1981(昭和56)年7月 石川澄子『マザー・グース 1』東京図書
・1981(昭和56)年9月 中山克郎『もうひとつのマザー・グース』東京布井出版
・1983(昭和58)年 百々佑利子『詩とナーサリー・ライム 1』ラボ教育センター
・1984(昭和59)年3月 吉田新一『絵本の魅力』日本エディタースクール出版部
・1984(昭和59)年7月 矢野文雄(藤野紀男)『アガサ・クリスティーはマザー・グースがお好き』日本英語教育協会
・1985(昭和60)年  高木あきこ『ポップアップ マザー・グースのうた 3 ねことバイオリン他』偕成社
・1986(昭和61)年3月 渡辺茂『マザー・グース事典』北星堂書店
・1986(昭和61)年8月 『マザーグース童謡集』日本英語教育協会
・1988(昭和63)年3月 来住正三『マザー・グースをしってますか?』南雲堂
・1988(昭和63)年4月 飯塚成彦『そらから英語がふってくる』知人館
・1989(平成元)年10月 和田誠『オフ・オフ・マザー・グース』筑摩書房
・1989(平成元)年11月 角野栄子『世界おはなし名作全集 1』小学館
1990(平成2)年6月 ぱくきょんみ『月なんかひとっとび』パルコ出版
・1990(平成2)年6月 ひらいたかこ『ディア マザーグース』架空社
・1990(平成2)年7月 薬師川虹一、豊田恵美子『マザー・グースと英詩の魅力』北星堂書店
・1992(平成4)年6月 鷲津名都江『わらべうたとナーサリー・ライム』晩聲社
・1992(平成4)年12月 石坂浩二『石坂浩二のマザーグース』らくだ出版
・1993(平成5)年 宮崎照代「マザーグース劇場」(『MOE』1993年10月号)
・1994(平成6)年1月 上田和夫『英語マザーグース集』西田書店
・1994(平成6)年3月 原岡笙子『マザーグースで身につける英語の発音とリズム』NHK出版
・1995(平成7)年3月 安藤幸江「マザーグースの面白さ 『猫とバイオリン』の場合」(『追手門大学英文学会論集』4号)
・1996(平成8)年 鳥山淳子『映画の中のマザーグース』スクリーンプレイ出版
・1999(平成11)年3月 寺岡襄『コールデコット絵本名作集』京都書院
・1999(平成11)年11月 夏目康子『マザーグースと絵本の世界』岩崎芸術社
2000(平成12)年 山田詩子『ターシャ・テューダーのマザー・グース』フェリシモ出版
・2005(平成17)年6月 河田ヒロ『お砂糖とスパイス マザー・グースの贈りもの』H&I
・2005(平成17)年10月 井田俊隆『マザーグースを遊ぶ』本の友社
・2008(平成20)年 重野しのぶ『マザーグース RED MOON』フレーベル館
・2009(平成21)年 藤田英時『別冊宝島スタディー マザーグースでつくる英語の耳と口』宝島社
2010(平成22)年 楠本君恵『マザー・グースのイギリス』未知谷
・2014(平成26)年5月 ないとう りえこ『ターシャ・テューダーのマザーグース』KADOKAWA
・2014(平成26)年12月 中村ケイ『マザーグースと一緒 かわいいバッグ&小物』日東書房
2019(平成31)年3月 蜂飼耳『マザーグースのうた』ポプラ社
New! ・2021年10月 福山裕『マザーグースの唄の世界 「男の子と女の子」&「動物」の唄』デザインエッグ
New! ・2022年2月 佐藤和哉『〈読む〉という冒険 イギリス児童文学の森へ』岩波ジュニア新書
目次へ
研究論文 New!    「もっと知りたい」ページへ

  • 安藤 幸江「マザーグースの面白さ 『猫とバイオリン』の場合」『追大英文学会論集』4号、pp.1〜18 (追手門学院大学、1995.3)
  • 河崎 良二「『えっさかほいさ、牝牛が月を飛び越えた』−『メアリー・ポピンズ』の不思議な世界−」『Lanterna 英米文学試論』18号、 pp.25〜42 (帝塚山学院大学文学部英文学科/英語コミュニケーション学科、2001)
  • 西脇 由利子「Mother Goose絵本における月の図像の変遷について--"Hey diddle diddle…"の場合」『絵本学』9号、pp.15〜28 (絵本学会、2007)
  • 志鷹 道明「ナンセンスライム:「猫とヴァイオリン」の象徴的意味 ヴァイオリニストは誰?」『英詩評論』25号、pp.44〜56 (中国四国イギリス・ロマン派学会、2009.6)
  • New! 夏目 康子「マザーグース“Hey Diddle Diddle”はどう翻訳されてきたか −北原白秋から機械翻訳まで−」『マザーグース研究』14号、pp.21〜41 (マザーグース学会、2022.3)
目次へ
引用とパロディー   「もっと知りたい」ページへ

  児童文学
  • P. L. トラヴァース作『風にのってきたメアリー・ポピンズ』岩波書店、1954 (原作1934)  …*5
  • P. L. トラヴァース作『とびらをあけるメアリー・ポピンズ』岩波書店、1975 (原作1943)  …*5
  • Kathryn Kenny作『The Mystery of the Missing Heiress』, 1970  …*1
  • ロビン・クライン作『翼ひろげて』偕成社 1996 (原作1983)。p.224
  ミステリー
  • アガサ・クリスティ作『三幕の殺人』ハヤカワ文庫、2003 (原作1935)  …*2
  • E. B. Ronald作『The Cat and Fiddle Murders』, 1954  …*2
  • アイザック・アシモフ作「行け、小さき書物よ」『黒後家蜘蛛の会 1』創元推理文庫、1976 (原作1974)。p.88  …*1
  • エドワード・D. ホック作「ネコにヴァイオリン」『ネコ好きに捧げるミステリー』光文社文庫、1990 (原作1982)。p.243
  その他
  • <随筆>Jerome K. Jerome著『Idle Thoughts of an Idle Fellow』, 1886  …*3
  雑誌
  • Roaring Twenties / Gay Nineties』1977夏季号掲載記事「The Bull」  …*1
  • The New Yorker』1983.8.15号掲載カトゥーン  …以下、*6
  • The New Yorker』1988.10.17号掲載カトゥーン
  • The New Yorker』1988.11.21号表紙イラスト
  • The New Yorker』1989.6.26号掲載カトゥーン
  • The New Yorker』1990.6.4号掲載カトゥーン
  • The New Yorker』1991.5.6号掲載カトゥーン
  • The New Yorker』1992.3.30号掲載カトゥーン
  • The New Yorker』1993.8.23/30号掲載カトゥーン
  • The New Yorker』1993.11.1号掲載カトゥーン
  映画  …*4
  • 『Three Little Pigs』1933. アメリカ <ディズニー短編アニメ>
  • 『Fanny Face (「パリの恋人」)』1957. アメリカ
※この項の参考文献  …出典注記がないものはフィドル猫発見例
*1 矢野文雄(藤野紀男)著『知っておきたいマザー・グース 1』三友社出版、1981
*2 矢野文雄(藤野紀男)著『アガサ・クリスティーはマザー・グースがお好き』日本英語教育協会、1984
*3 藤野紀男著『英文学の中のマザーグース』荒竹出版、1987
*4 鳥山淳子著『もっと知りたいマザーグース』スクリーンプレイ出版、2002
*5 後藤三智子著「メアリー・ポピンズとマザーグース」『マザーグース研究』第1号 (マザーグース学会、1994)
*6 小泉純一著「マザーグース・イン・カトゥーンズ」『マザーグース研究』第6号 (マザーグース学会、2004)
目次へ
ねこのイラスト

  『マザーグースイラストレーション事典』(柊風舎、2008。以下『イラスト事典』と略)によれば、この唄の最も古い イラストは、1780年頃のNancy Cock's Pretty Song Book に添えられた木版画らしいが、「猫」と「フィドル」だけが描かれて いない珍しいもの。そこで、「猫」が描かれている最も古いものは、1788年のTommy Thumb's Song Book ということになるか。


  次に古いのは、1791年のMother Goose's Melody だろう。「猫とフィドル」だけというシンプルな構図。
この本の初版(1780年出版登記)は、タイトルに「Mother Goose」という語を使った最も古い童謡集。『イラスト事典』は、1791年版 (初版の出版者ニューベリーの孫F. パワー出版)を掲載している。ここには、ほるぷ出版復刻シリーズに収録の 1816年版(パワーから版権を買い取ったJ. マーシャルが出版)から、初版と同じ構図に着色したものを紹介。 猫の模様は、ブチか縞か判然としない。


  さて、猫が黒猫か白猫か、はたまたトラ猫かブチ猫か。服を着ているかいないか。そのあたりを比べるには、19世紀後半以降 のイラストを見る必要がある。
  ベネット(1858)の猫は、模様は不明だが、服は着ていない。クロウキル(1865)の猫も模様はよくわからないが、 顔と右前肢にかすかに縞模様が見える。赤い長上着に黄色いズボンと帽子という色鮮やかな衣装を身につけている。 チャールズ・H. ベネット、アルフレッド・クロウキルのイラストは 「Hey Diddle Diddle, The cat and the fiddle ― イラストと邦訳 ―」のページ参照。
  Anut Mary's Nursery Rhymes (1866; ほるぷ出版復刻、1992)にはイラストレーターの記載がないが、ほるぷ出版の「解説」 によれば、イギリス人ウィリアム・マッコーネル。この猫も赤い上着を着ている。黄色いチョッキも着ているようだ。模様は不明。
マッコーネル

  「エヴァンズの三人組」と言われる、ヴィクトリア朝の著名なイラストレーター、W. クレイン、K. グリナウェイ、 R. コルデコットの中では、グリナウェイだけこの唄の絵を描いていない。クレイン(1877)の猫は黒猫である。黒い上着と 白いシャツを身につけている。ズボンは不明。積み上げた本に腰掛けて、チェロのようにフィドルを弾いている。
  コルデコット(1882)の猫は、トラ猫のようだ。最初は服を着ていないが、途中から赤い上着だけ身にまとう。赤い上着が 多いが何か意味があるのだろうか。 ウォルター・クレイン、ランドルフ・コルデコットの大きいイラストは 「Hey Diddle Diddle, The cat and the fiddle ― イラストと邦訳 ―」のページ参照。
コルデコット

  『イラスト事典』を見る限りでは、1887年のFavourite Rhymes for the Nursery と1888年のOld King Cole Mother Goose (ともにイラストレーター不明)の猫は、トラ猫。レズリー・L. ブルック(1897)の猫は白猫である。
  20世紀に入ると、黒猫が増えてくる。P. ウッドロフ(1907)、A. ラッカム(1913)、F. リチャードソン(1915) の猫たちはみな黒猫だ。『イラスト事典』では、白黒印刷だが、原書はどれもカラー図版なので、印刷の都合ではなく、イラストレーターの イメージが黒猫なのだろう。B. ポター(1903)とB. F. ライト(1916)も黒猫だ。ポターだけ白黒印刷だが、ウッドロフの猫も赤い上着 を着ている。ラッカムの猫は黒い上着に、紫の太いサッシュベルト、首には水玉のネッカチーフ、足にはクリーム色のハーレム パンツのようなズボンをはいている。リチャードソンの黒猫は、何も着ていないが、逃げていくお皿が燕尾服のような上着を着て いる。ライトの猫は、青い服に赤いボウタイ。
ウッドロフ   ラッカム   リチャードソン   ポター    ライト

  現代の絵本作家はどうか。 B. ワイルドスミス(1964)はトラ猫。 R. スカーリー(1964)は模様がない。 R. ブリッグズ(1966)の猫は逆光で模様はよくわからない。頭に縞があるようだが。 N. ベイリー(1975)はトラ猫。 C. ヴォーク(1985)もT. デパオラ(1985)もトラ猫だ。 A. ローベル(1986)は模様がない。 L. カズンズ(1989)はトラ猫。 I. ベック(1989)もトラ猫。 F. ジャック(1990)もH. クレイグ(1992)もトラ猫。 E. ハーバー(1995)は黒猫。S. ロング(1999)は珍しく白猫。 ここへ来て、またトラ猫復活のようだ。服を着ているのはスカーリーの猫とロングの猫だけだ。スカーリーの猫は赤い帽子に緑の上着、 黄色いネッカチーフも巻いている。スカーリーの絵本では、登場人物が全て動物で描かれるので、他の唄のイラストの動物たちも服を着て いるが、この唄の牛も犬もフル装備で服を着ている。ロングの猫は、黒い上下で腰にベルト。地味な服装で背景の裏方。むしろメインは、 バレリーナのトウシューズを四つもはいている、ピンクのチュチュの牝牛や、ヘラサギのクチバシになっているスプーンと亀の甲羅に なっているお皿だろう。ローベルの猫は首にピンクのリボンを巻いている。ハーバーの猫も首に赤いリボンを巻いている。

ワイルドスミス   スカーリー1999年豪華版   ブリッグズ2010年再版   ベイリー1992年新版   デパオラ   ローベル   カズンズ1998年新版   ベック   ジャック   クレイグ   ハーバー   ロング  

#表紙画像はAmazonアフィリエイトより(2012.10)

※この項〈現代の絵本作家〉の絵本  …タイトル、出版社などは初版データです。
ブライアン・ワイルドスミス絵 Mother Goose, Oxford University Press, 1964
リチャード・スカーリー絵 Richard Scarry's Best Mother Goose Ever, Western Publishing Company, 1964
レイモンド・ブリッグズ絵 The Mother Goose Treasury, Hamish Hamilton Ltd, 1966
ニコラ・ベイリー絵 Nicola Bayley's Book of Nursery Rhymes, Jonathan Cape, 1975
シャーロット・ヴォーク絵 Over the Moon, Walker Books, 1985
トミー・デパオラ絵 Tomie de Paola's Mother Goose, G. P. Putnam's sons, 1985
アーノルド・ローベル絵 The Random House Book of Mother Goose, Random House,1986
ルーシー・カズンズ絵 The Little Dog Laughed, Macmillan Children Books, 1989
イアン・ベック絵 Pudding and Pie: Favourite Nursery Rhymes, Oxford University Press, 1989
フェイス・ジャック絵 The Orchard Book of Nursery Rhymes, Orchard Books, 1990
ヘレン・クレイグ絵 I see the moon and the moon sees me... Helen Craig's book of Nursery Rhymes, Willa Perlman Books, 1992
エリザベス・ハーバー絵 A First Picture Book of Nursery Rhymes, Viking, 1995
シルヴィア・ロング絵 Sylvia Long's Mother Goose, Chronicle Books, 1999
目次へ
絵本のタイトル

  Hey diddle diddle  …1冊目は、トミー・デパオラの絵本。2冊目は楽譜付き、3冊目はCD付き。


  The cat and the fiddle


  The cow jumped over the moon  …1冊目は、シャーロット・ヴォークの絵本。2冊目は仕掛け絵本。


  The little dog laughed / To see such a sport  …ルーシー・カズンズの絵本。


  And thd the dish ran away with the spoon  …1冊目は2006年度ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品。 2冊とも逃げたお皿とスプーンのその後を描いたパロディー絵本。


#表紙画像はAmazonアフィリエイトより(2012.10/19)

目次へ
グッズ

  手袋人形   ぬいぐるみ        布地

#画像リンクはAmazonアフィリエイトより(2012.10/19)

目次へ
先頭へ


マザーグース学会について
マザーグースに関心のある方は、学会のホームページへどうぞ。



この部屋についてのご感想、リンクのご連絡などは こちらへお寄せください。

「マザー・グースの部屋」へ