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「ねずみの唄」もっと

  「ねずみ年のマザー・グース」で、ねずみの出てくる唄を 5篇紹介しましたが、マザーグース学会の第10回大会 (2008.12.7) の テーマ展示のため、「ねずみの唄」を調べたところ、他にも続々 見つかりました。展示された絵本から、 各唄を楽しく描いたものをご紹介します。 (表紙画像は、Amazon書店のアフィリエイトなどを使用しています。)

目次    絵本一覧へ
  1. A cat (又は Puss) came fiddling out of a barn   猫が納屋からバグパイプ弾きつつ  <ODNR88>
  2. A frog (又は Froggie) he would a-wooing go   蛙どんが求婚に  <ODNR175>
  3. Bow-wow, says the dog    ワン、ワン、と犬が鳴く   <ODNR138>
  4. Hoddley, poddley, puddle and fogs   ホドリィ、ポドリィ、パドルにフォグ  <ODNR225>
  5. Jerry Hall, He is so small     ジェリー・ホール、すごくちっちゃい  <ODNR273>
  6. Little Poll Parrot    おうむのポル  <ODNR419>
  7. Miss Jane had a bag and a mouse in it   ミス・ジェインのバッグにネズミ
  8. ・Pretty John Watts, we are troubled with rats   ジョン・ワッツさんネズミ被害たくさん  <ODNR279>
  9. Pussy cat, pussy cat, where have you been?   子猫や、子猫、どこへ行ってた?  <ODNR428>
  10. Rats in the garden, catch 'em Towser   庭のネズミを捕れ、タウザー
  11. There was a rat, for want of stairs   ネズミが一匹、階段なくて  <ODNR436>
  12. ・This is the house that Jack built     これはジャックが建てた家  <ODNR258>
  13. Three young rats with black felt hats   3匹の黒いフェルト帽の若いネズミ  <ODNR437>
  14. When I was a bachelor (又は little boy)   俺が独り身だったとき  <ODNR71>

    以下、「ねずみ年のマザー・グース」で紹介ずみの唄。

  15. Hickory, dickory, dock     ヒッコリィ、ディッコリィ、ドック  <ODNR217>
  16. I saw a ship-a-sailing  舟が くるよ  <ODNR470>
  17. Six (又は Three) little mice sat down to spin   ネズミ6匹、糸つむぎ  <ODNR349>
  18. Three blind mice  3匹の目が見えないネズミ  <ODNR348>
  19. ・There was a crooked man  曲がりくねった男がいてね  <ODNR325>
<ODNR>は、オーピー夫妻のThe Oxford Dictionary of Nursery Rhymes, (1951)の番号です。

A frog he would a-wooing go  蛙どんが求婚に

  これは、長い唄なので、一冊の絵本になっているものが多い。有名どころでは、イギリスの絵本の 名手コルデコットのA Frog he would a-wooing go (1883)や、アメリカに渡ったロシアの画家、 ロジャンコフスキーのFrog Went A-Courtin' (1955)がある。変わったところでは、ほるぷ出版が 1996年に復刻した、The Frog's Wooing (E. Caldwell画, Marcus Ward & Co., 1900年頃) がある。

  その他の絵本では、アーサー・ラッカムのMother Goose (初版1913)や、マイケル・フォアマンの Michael Foreman's Nursery Rhymes (1991)に収録されているが、蛙の求婚するネズミが「Mrs. Mouse」と なっているバージョン。ラッカムのUncle Ratは、メガネをかけていてラッカム本人の似顔かもしれない。

  ほるぷの復刻本は、19世紀後半に流行った仕掛け絵本の一種の型抜き本。こちらの蛙は、歌詞通りの オペラハット (折り畳みできるシルクハット) ではなく、ナポレオンのような帽子をかぶっている。唄の最後で 乱入する猫が、赤いマントに短剣を持ち、いかにも「悪漢」然としている。

  コルデコットの作品では、オペラハットをかぶり、めかし込んででかけた蛙が、道中でUncle Rat に出会い、Miss. Mousieへの求婚に付き添ってもらう。3匹で楽しく歓談しているところを猫の親子が襲い、 ネズミたちは猫にやられ、その場は逃れた蛙も途中でアヒルに呑まれて、あえなく最後を迎える。人間の一家が 「蛙の求婚」を見守っている、絵だけのサイドストーリーにコルデコットの面目が躍如。

  ロジャンコフスキーの絵本は、ラングスタッフの再話で、アメリカ・バージョン。 蛙はオペラハットの代わりに刀と銃を身につける。蛙は一人でMiss. Mousieをひざに乗せて 求婚し、Uncle Ratはなぜかガウン姿。猫は乱入するが、みんな無事逃げて、ハッピーエンド。 (この絵本については、翻訳も含めて 「2006年に買ったマザー・グースの本いろいろ」でも紹介。) ロジャンコフスキーは、この絵本で コルデコット賞 (アメリカで前の年に出版された中で最も優れた絵本に与えられる) を受賞。
       

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A cat came fiddling out of a barn   猫が納屋からバグパイプ弾きつつ

  これは楽しい唄で、ネズミとマルハナバチの結婚という、めでたい行事に、猫がバグパイプを 演奏しているというもの。異種婚姻譚という民話に見られる形だが、こういう場合、自然界では仇同士でも、 平和共存するということだろうか。

  絵本では、バレリーナを夢見るネズミの女の子、アンジェリーナのシリーズがある、ヘレン・ クレイグがI see the moon, and the moon sees me.... (1992)で1ページをさいて大きく描いている。 マルハナバチの新郎は、赤いシルクハットをかぶり、三脚の上に立ってやっと新婦の白ネズミと同じ高さ。 猫はオレンジの縞のトラネコで、大きく描かれているが、ネズミたちに恐れる様子はない。猫の首にまかれた 細い緑色のリボンの2本の端を2匹のネズミが楽しげに持っている。

  その他では、レイモンド・ブリッグズとトミー・デパオラが描いているが、いずれも小さく、 歌詞は、「Puss came dancing out of a barn」で始まる。デパオラのイラストでは、 ネズミが新郎で、マルハナバチが新婦。マルハナバチはヴェールだけ付けている。 ブリッグズのイラストでは、余りにも小さい上、ネズミもマルハナバチも服は身につけていないので、 どちらが新郎で新婦か不明。
      A cat came fiddling out of a barn,
      With a pair of bagpipes under her arm,
      She could sing nothing but, Fiddle cum fee,
      The mouse married the humble-bee.
      Pipe, cat; dance, mouse;
      We'll have a wedding at our good house.
猫が納屋から まかりでた
弾いているのは バグパイプ
奏でているのは「フィドルカムフィー」
ネズミがマルハナバチと結婚した
猫にバグパイプにダンスにネズミ
われらの家で婚礼だ       (訳・フィドル猫)

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Miss Jane had a bag and a mouse in it   ミス・ジェインのバッグにネズミ

  これは、めずらしい唄で、収録されている童謡集も少ない。というか、フレデリック・リチャードソン 描くところのMother Goose : The Original Volland Edition (初版1915)でしか見たことがない。

      Miss Jane had a bag and a mouse in it,
      She opened the bag, he was out in a minute.
      The cat saw him jump and run under the table,
      And the dog said: "Catch him, Puss, soon as you're able."

      ミス・ジェインのバッグにネズミ
      バッグあけたら、飛び出した
      猫は見た ネズミ逃げ込む机の下
      犬は言った「猫や、いそいで捕まえろ」       (訳・フィドル猫)


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Hoddley, poddley, puddle and fogs   ホドリィ、ポドリィ、パドルにフォグ

  この唄では、猫とプードル犬が結婚。絵本では、シャーロット・ヴォークが、 Over the Moon (1985)で、1ページに大きく描いている。新郎の猫は山高帽に青い上着、縦縞のシャツ、 新婦のプードルは赤い帽子に白いドレス、ヴェールをネズミが持っている。ページの上の方では、 ネズミたちが結婚披露宴のご馳走の皿やグラスを持って、新郎新婦の到着を待っている。同じ見開きに、 「Three young rats」の唄と「There was a rat, for want of stairs」が描かれており、前者のイラストから 雨が降り込んでいる。

  その他では、エリザベス・ハーバーがA first book of nursery rhymes (1995) で描いているが、こちらは、新郎が黒いプードル犬で、 赤い山高帽に赤に水玉の蝶ネクタイ、黒い上着に縦縞のズボン。猫が新婦で、ヴェールに水色の上着、 ピンクのスカート。ネズミたちは衣装無しで、周囲にたむろしているだけ。

  ブリッグズやアーノルド・ローベルも大きく描いているが、生憎ネズミが描かれていない。 ただ、ブリッグズは、歌詞に忠実に、複数の猫たちと犬たちのカップルが霧(fog)の中を歩いていくところを 描いている。いずれのカップルも猫が新婦で、犬が新郎。犬たちは皆つばなしの赤い山高帽、 プードルの巻き毛がカツラのような感じ。
      Hoddley, poddley, puddle and fogs,
      Cats are to marry the poodle dogs.
      Cats in blue jackets and dogs in red hats,
      What will become of the mice and rats?
ホドリィ、ポドリィ、パドルにフォグ
猫たち、プードルと結婚だ。
猫たち 青い上着、犬たち 赤い帽子
ネズミたちは、どうしたらいい?
                                   (訳・フィドル猫)
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Three young rats with black felt hats   3匹の黒いフェルト帽の若いネズミ

  この唄は、3匹の若いネズミに始まって、いろいろな動物たちが3匹ずつ (豚だけなぜか2匹だが) お散歩に出かけるが、雨にあって戻ってくる、というもの。
  絵本では、フェイス・ジャックがThe Orchard Book of Nursery Rhymes (1990) で、1ページに大きく描いている。ネズミたちは、蝶ネクタイにチョッキ、縦縞のズボンに 散歩杖まで持っている。アヒルたちは女性に描かれており、ピンクのケープに平たい麦わら帽。 ただし、平野敬一氏の解説によると「flat straw」は、アイルランド英語の「サンダル」の意味 ではないか、という (『マザー・グース』1 講談社文庫、1981) 。犬たちはナポレオン帽に フロックコート、猫たちはベール付きの帽子にドレスにポシェット、豚たちは旦那風の上着に サテンのベスト、栗色のカツラでおめかししている。<ODNR437>には「two pigs」とあるが、 ここでは豚も3匹。どの動物も同じ大きさである。

  他にはジョナサン・ラングレーがThe Collins Book of Nursery Rhymes (1990) で、雨にあって戻ってくる場面をページの半分に描いている。こちらはカジュアルな服装で、 ネズミは黒いベレー帽と横縞Tシャツにズボン、アヒルは麦わら帽だけ、犬に至っては首輪 だけで尻尾を巻いている。猫はベールにワンピース、2匹の豚は前をはだけたベストにカツラだけ。 同じページに「Three blind mice」、次のページに「Hickory, dickory, dock」と「Six little mice sat down to spin」、見開きに四つネズミの唄を集めて、「Mice Galore」と見出し を付けている。

  その他の絵本では、ヴォークやクレイグも描いているが、ちょっと変わっているのは、 The Mother Goose Treasury (1966) のレイモンド・ブリッグズ。手前に大きく、脱ぎ捨て られた黒い帽子や麦わら帽、ベールやカツラが描かれ、遠景に真っ黒な土砂降りの中を逃げ帰る 動物たちがシルエットで小さく描かれている。この本も豚は3匹。
  また、タイトルがズバリのThree Young Rats (初版1944) のイラストは、 アレクサンダー・コールダーの大人向けの線描画だが、この本のネズミは、タイトルを しょっているためかカンガルーほども大きい。
      Three young rats with black felt hats,
      Three young ducks with white straw flats,
      Three young dogs with curling tails,
      Three young cats with demi-veils,
      Went out to walk with two young pigs
      In satin vests and sorrel wigs;
      But suddenly it chanced to rain
      And so they all went home again.
3匹の 黒いフェルト帽の若いネズミ
3羽の 白いサンダルの若いアヒル、
3匹の 尻尾巻き上げた若い犬、
3匹の ベールかぶった若い猫、
サテンのベストに栗色カツラの
2匹の若い豚と散歩にいったが
突然 雨が降り出して
みんなそろって 家に帰った
                                   (訳・フィドル猫)
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Jerry Hall, He is so small   ジェリー・ホール、すごくちっちゃい

  ヴォークがOver the Moon (1985)で、白黒だが1ページに 大きく描いている。すごく大きいネズミと、帽子を目深にかぶったジェリーが 食卓で向かい合っている。間にあるお皿は空っぽで、ネズミの両手にはナイフと フォーク。今にも食べられそうだ。
  クレイグのI see the moon, and the moon sees me.... (1992)では、 黄色い目のこわそうなネズミに対抗して、ちっちゃなジェリー・ホールが真っ赤な トゲトゲのついた帽子をかぶると、ネズミは気弱そうな表情になる、2コマ仕立て。

      Jerry Hall,
      He is so small
      A rat could eat him,
      Hat and all.

      ジェリー・ホール、すごくちっちゃい
      ネズミに帽子ごと食べられちゃう         (訳・フィドル猫)              目次へ
Rats in the garden, catch 'em Towser   庭のネズミを捕れ、タウザー

  これはほとんど絵本に取り上げられていない唄。わずかにブリッグズと、 ギョウ・フジカワがMother Goose (1969) で、谷川俊太郎訳の『マザー・グースのうた』 第5巻 (草思社、1976) で堀内誠一が描いているくらい。谷川俊太郎はこの唄をブリッグズのThe Mother Goose Treasury (Puffin Books) から採っている。<ODNR>には載っていない。

  庭のネズミ、畑の牛、ポットの猫とだんだん騒ぎが重なって、最後は 山が噴火して大混乱。「Towser」という名前は、これまた平野敬一氏の解説によると「大型の 猛犬に、昔よく付けた名前」だそうだ (『マザー・グース』1 講談社文庫、1981) 。ただし、 フジカワのイラストは、どう見ても小型犬だ。ブリッグズの犬もたいした犬には見えない。 堀内誠一のイラストには、犬の影もない。

      Rats in the garden, catch 'em Towser,
      Cows in the cornfield, run, boys, run;
      Cats in the creampot, stop her, now sir,
      Fire on the mountain, run, boys, run.

      庭のネズミを捕れ、タウザー
      畑の牛を追い出せ、坊主ども
      クリームポットの猫を すぐ止めろ、
      山が噴火だ、避難だ、ものども         (訳・フィドル猫)


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There was a rat, for want of stairs   ネズミが一匹、階段なくて

  これは一体、どういう唄だろう? 韻の面白さもそれほどないし、イメージが楽しい というほどでもない。ただ、ネズミが「お祈りに」来る、とはどういうわけか。

  イラストも、ローベルが「Hickory, dickory, dock」「Jerry Hall」と同じページに 描き、この唄のネズミは、なぜか燕尾服を着て、柱時計の上に結び付けたロープを持って まるでバンジージャンプのように飛び降りている。そのロープは床に丸く開いた穴の中にたれて いる。

  ブリッグズとヴォークのイラストでは、ロープは床にたれていて、普通のネズミ が伝い下りてくるだけ。トミー・デパオラのTomie dePaola's Mother Goose (1985) では、 誰かがつまんでいるロープの切れ端にネズミが片手でぶら下がっている。
  ちょっと変わっているのは、ギョウ・フジカワで、 ロープをすべり台のようにネズミが滑り下りている。

      There was a rat, for want of stairs
      Went down a rope to say his prayers.

      ネズミが一匹、階段なくて
      お祈りに来た、綱をつたって         (訳・フィドル猫)


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Little Poll Parrot   おうむのポル・パロット

  これも変な唄だ。でも、よく見るとネズミが出てくる唄は大概、変だ。 イメージは楽しい。ポル・パロットの朝ごはんなのか、トーストとお茶をネズミが まんまと盗み出す、というもの。
  メアリー・エンゲルブライトがMary Engelbreit's Mother Goose (2005) で 1ページに大きく描いている。そこでは、おうむは足台にスリッパをはいた足を載せ、カップを 片手(?)に居眠りしている。ネズミはティーポットを抱えてしのび足。傍らのテーブル には4枚重ねのトーストにジャム、電気スタンドもあって、とても屋根裏部屋には見えない。

  クレイグは、「Six little mice sat down to spin」の唄と同じページに描き、 階下は糸紡ぎ部屋になっている家の屋根裏がポル・パロットの部屋。ここでは、おうむが窓に背を 向け新聞を読んでいる隙に、窓から入り込んだネズミにティーカップとトーストの載った お盆を盗まれ、ふりむいて驚いている図。盗人ネズミは覆面、行く手にはリボンをつけた ガールフレンドとおぼしきネズミが待っている。

  ブリッグズのおうむは、別に注意散漫だったわけではなさそうだ。いかにも粗末な 屋根裏の小さなテーブルに腰掛け片肘(?)をつき、ネズミがティーカップとトーストの 載ったお盆を悠然と持ち去るところを、呆然と見ている。得意そうな表情のネズミに 対して、途方にくれたようすのおうむが哀れを誘うような感じ。

  デパオラのイラストでは、立派なティーコジーをかぶせたティーポットと、トースト スタンドの載ったお盆を持っているネズミに、屋根裏の窓から身を乗り出したおうむが 腹立たしげに叫んでいる構図。ネズミは知らんぷりで立ち去るところ。
      Little Poll Parrot
      Sat in his garret
      Eating toast and tea;
      A little brown mouse
      Jumped into the house
      And stole it all away.
おうむのポル・パロットが
お茶とトースト食べながら
屋根裏部屋にすわってた
そこへ茶色い小ネズミ
飛び込んできたと思ったら
なんもかんも盗ってった          (訳・フィドル猫)            目次へ
When I was a bachelor   俺が独り身だったとき

  この唄のネズミは、実にネズミらしい。つまり、本来の 害獣としての活動をしているためか、イラストもネズミを描いたものは少ない。
  ほるぷ出版が復刻した、Magic Mother Goose Melodies (絵がわりマザー グースのメロディ) (1879) では、たいそうリアルにネズミが描かれている。 ネズミたちは、チーズの棚だけでなく、床にも椅子の上にもいて、楽しげに 走り回ったり、独身男の方を見たりしている。
  他にはハロルド・ジョーンズが、Lavender's Blue (1954) で、白黒だが この唄を1ページに大きく描いている。ネズミたちは個性なく黒いシルエットで、 チーズやパンを荒らしている。

      When I was a bachelor, I lived by myself,
      And all the bread and cheese I got, I put upon the shelf;
      But the rats and the mice they made such a strife,
      I was forced to go to London to get myself a wife:

      俺が独り身だったとき、一人で暮らしていた
      パンやチーズはみんな 棚に置いていた
      だがそいつをめぐって ネズミどもが大騒ぎ
      ロンドンまで かみさんもらいに行かにゃならんかった

      (訳・フィドル猫)


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Pussy cat, pussy cat, where have you been?   子猫や、子猫、どこへ行ってた?

  まあ、ネズミに猫はつきものと言え、だんだん猫の唄紹介コーナーに なってきているようだ。
  この唄は、よく採り上げられているが、ヘレン・オクセンベリは、ちょっと 変わったアングルで描いた。The Helen Oxenbury Nursery Rhyme Book (1986) で 女王のスカートの裾をアップで描き、両足を上げた椅子の下から、猫がネズミを 追い出している。

  Sylvia Long's Mother Goose (1999) のシルヴィア・ロングは、唄の登場人物を 全て動物で描いているが、この唄では、女王は牝ライオン。椅子の下のネズミは、 道化師の衣装なので、お抱えらしい。
  ブライアン・ワイルドスミスのBrian Wildsmith Mother Goose (1964) の 猫は、お城の扉から外へネズミを追い出したところ。
   Pussy cat, pussy cat, where have you been?
I've been up to London to look at the queen.
Pussy cat, pussy cat, What did you there?
I frightened a little mouse under her chair.

子猫や、子猫、どこへ行ってた?
女王様見に ロンドンへ
子猫や、子猫、なにしたの?
玉座の下でネズミおどかした

(訳・フィドル猫)

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Six little mice sat down to spin   ネズミ6匹、糸つむぎ

  この唄には、ネズミが6匹の形と3匹の形がある。『ODNR』には、「Six」 の形が載っており、ビアトリクス・ポターの『グロースターの仕たて屋』の中で、ネズミたちが この唄を歌う、と書いてあるが、『グロースターの仕たて屋』で歌われているのは、「Three」の 形。ポターのイラストを再構成したBeatrix Potter's Nursery Rhyme Book (1984) では、 見開き2ページにわたって4枚の絵で描かれる。

  ヘンリエッタ・ウィルビーク・ルメール画のLittle Songs of Long Ago, (初版1912) や、 アラン・ハワード画のThe Faber Book of Nursery Songs, (1968) 、コールダーの本にも3匹の形が 出ている。他は6匹で、ブリッグズ、デパオラ、クレイグなどが大きく扱っている。エリザベス・ハーバーは、 大きく見開きに描き、ネズミたちが糸つむぎしている家は、人形の家。


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Hickory, dickory, dock   ヒッコリィ、ディッコリィ、ドック

  この唄は、北原白秋が「柱時計」と題して訳したこともあるくらいで、イラストも たいてい柱時計が描かれている。ベリンダ・ドウンズが刺繍でイラストを付けた『ししゅうで つづるマザーグース』 (評論社、1997) では、珍しく置時計が描かれている。

  リチャードソンの時計は、文字盤の中央に顔があって、今まさに駆け下りんとしている ネズミに笑いかけている。ラングレーは、柱時計の柱部分の扉を、文字盤の下のでっぱりにいる ネズミが上から乗り出して閉めようとしている。というのも、猫がいっばい入っているのだ。

  ロバート・サブダの凝ったポップアップ絵本The Movable Mother Goose, (1999) では、柱時計は ネズミたちの運動会場。かけ上るネズミはゼッケン1、かけ下りるネズミはゼッケン2。

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I saw a ship-a-sailing   舟が くるよ

  この唄は絵にしやすいらしく、日本の武井武雄も『キンダーブック』第七集第八編(昭和27年11月号) に「ほかけぶね」として描いている (「ねずみ年のマザー・グース」 参照)。ラッカム、ジョーンズ、ワイルドスミス、ヴォーク、ローベル、ラングレー、フォアマン、エンゲル ブライトと皆、律儀に24匹ネズミを描き込んでいる。ただ、エンゲルブライトの24匹目は見つけにくい。 ブリッグズはネズミを14匹しか描かなかったが、その代わり(?)、船倉のお菓子が 描かれている。

  珍しいのは、普通、おしゃれの一種として描かれるネズミの首の「silver chain」を 奴隷の鎖として描いたフェイス・ジャック。24匹の首の鎖が互いにつながっており、ネズミたちの表情 も暗い。
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Bow-wow, says the dog   ワン、ワン、と犬が鳴く

  英語で、動物がなんと鳴くか知りたければ、この唄を思い出せばいい。ネズミは 4行目に登場。「sqeak」は、「チューチュー」というよりは「キーキー」という感じだが。

  ブリッグズはオーソドックスに、動物と鳴き声を一緒に描き、カッコウだけ鳴き声無し。正に歌詞どおりの絵。逆にヴォークは、カッコウだけ吹き出しの中に「cuckoo!」と入れた。フェイス・ジャックは写実的なイラストで、猫やフクロウは夜、ネズミは穀物倉、アヒルは池、とそれぞれの動物にふさわしい背景で8つの囲みの中に描く。

  アリスとマーティン・プロヴェンセン夫妻のThe Mother Goose Book (1976)は、1ページを大きく8つにコマ割りし、1コマに大きく1匹ずつ描く。犬にだけ引き綱を持つ男の子が描かれているが、犬よりずっと小さくて小人のよう。変わっているのは、最後がカッコウではなく、「Moo」と牝牛が鳴いている点。

  フォアマンとロングのイラストでは、動物たちの合唱団、という見立て。 ロングの絵本では大きく見開きを使い、ネズミは指揮棒をふっている。この本では、カッコウの代わりにスズメが入っていて、イラストの中に「Cheep Cheep Cheep」と印刷してある。しかも、その後に2連あり、「あなたを喜ばせる素晴らしい歌」などと続いている。
Bow-wow, says the dog;
Mew, mew, says the cat;
Grunt, grunt, goes the hog;
And sqeak goes the rat.

Tu-whu, says the owl;
Caw, caw, says the crow;
Quack, quack, says the duck;
And what cuckoo say, you know.
ワン、ワン、と犬が鳴く
ニャー、ニャー、と猫が鳴く
ブゥブゥ 言うのは豚さんで、
チュウチュウ 言うのはネズミさん

フクロは、ホゥホゥ鳴くんだし、
カラスは、カァカァ鳴きますね
アヒルは、ガァガァ鳴いてるし、
カッコウの鳴き声、知ってるね

                          (訳・フィドル猫)

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Three blind mice   3匹の目が見えないネズミ
  最後に紹介するThe Glorious Mother Goose, (Atheneum Books, 1988) は、1870〜1933年までのイラストを収録。1つの唄に2つずつ 別の画家の絵が添えられているので比べると面白い。この「Three blind mice」では、 1901年のピーター・ニューウェルと1909年のウォルター・コーボウルドのイラストが載っている。 ニューウェルのネズミは黒いメガネをかけ、「Please pity」の札を付けている、一種の典型だが、コーボウルドのネズミは3匹とも、どう見ても目が見えている。上着にズボン、チョッキに蝶ネクタイまでめかしこんだ3匹のネズミは、楽しげにダンスを踊っている。

  この唄は、尻尾を切り落とすところから、残酷だと言われるが、ほるぷ出版復刻のMagic Mother Goose Melodies (絵がわりマザーグースのメロディ)では、おかみさんが笑いながらネズミの尻尾を切っている場面が描かれ、なんとも不気味である。

  一方、歌としては輪唱の楽しさもあり、人気の衰えない唄で、イラストレーターの腕の見せどころ。ラングレーのイラストでは、おかみさんがわざわざチーズをひきずってネズミに自分を追いかけさせているし、ロングでは、歌詞とは逆におかみさんの方がネズミを追いかけている。


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紹介した絵本一覧  (発行年順)
  1. Magic Mother Goose Melodies (絵がわりマザーグースのメロディ) (1879) (ほるぷ出版、1996復刻)   n), r)
  2. ・ランドルフ・コルデコット画、A Frog he would a-wooing go (1883)   b)
  3. ・E. コールドウェル画、The Frog's Wooing (1900年頃) (ほるぷ出版、1996復刻)   b)
  4. ・ビアトリクス・ポター作・画、石井桃子訳『グロースターの仕たて屋』 (福音館書店、1974、原書1903)   q)
  5. The Glorious Mother Goose (Atheneum Books, 1988)   r)
  6. ・ヘンリエッタ・ウィルビーク・ルメール画、Little Songs of Long Ago (初版1912)   q)
  7. ・アーサー・ラッカム画、Mother Goose (初版1913)   b), p)
  8. ・フレデリック・リチャードソン画、Mother Goose : The Original Volland Edition (初版1915)   g), o)
  9. ・アレクサンダー・コールダー画、Three Young Rats (初版1944)   m), q)
  10. ・武井武雄画「ほかけぶね」『キンダーブック』第七集第八編 (昭和27年11月号) (フレーベル館、1952)   p)
  11. ・ハロルド・ジョーンズ画、Lavender's Blue (1954)   n), p)
  12. ・フョードル・ロジャンコフスキー画、ジョン・ラングスタッフ再話、 Frog Went A-Courtin' (1955)  b)
  13. ・ブライアン・ワイルドスミス画、Brian Wildsmith Mother Goose (1964)   i), p)
  14. ・レイモンド・ブリッグズ画、The Mother Goose Treasury (1966)   a), d), m), j), k), f), q), p), c)
  15. ・アラン・ハワード画、The Faber Book of Nursery Songs (1968)   q)
  16. ・ギョウ・フジカワ画、Mother Goose (1969)   j), k)
  17. ・アリス & マーティン・プロヴェンセン夫妻画、The Mother Goose Book (1976)   c)
  18. ・堀内誠一画、谷川俊太郎訳『マザー・グースのうた』第5巻 (草思社、1976)   j)
  19. ・ビアトリクス・ポター画、Beatrix Potter's Nursery Rhyme Book (1984)   q)
  20. ・トミー・デパオラ画、Tomie dePaola's Mother Goose (1985)   a), k), f), q)
  21. ・シャーロット・ヴォーク画、Over the Moon (1985)   d), m), e), k), p), c)
  22. ・ヘレン・オクセンベリ画、The Helen Oxenbury Nursery Rhyme Book (1986)   i)
  23. ・アーノルド・ローベル画、The Arnold Lobel book of Mother Goose (初版1986)   d), k), p)
  24. ・フェイス・ジャック画、The Orchard Book of Nursery Rhymes (1990)   m), p), c)
  25. ・ジョナサン・ラングレー画、The Collins Book of Nursery Rhymes (1990)   m), o), p), r)
  26. ・マイケル・フォアマン画、Michael Foreman's Nursery Rhymes (1991)   b), p), c)
  27. ・ヘレン・クレイグ画、I see the moon, and the moon sees me.... (1992)   a), m), e), f), q)
  28. ・エリザベス・ハーバー画、A first book of nursery rhymes (1995)   d), q)
  29. ・ベリンダ・ドウンズ刺繍、鷲津名都江訳『ししゅうでつづるマザーグース』 (評論社、1997、原書1996)   o)
  30. ・シルヴィア・ロング画、Sylvia Long's Mother Goose (1999)   i), c), r)
  31. ・ロバート・サブダ作、The Movable Mother Goose (1999)   o)
  32. ・メアリー・エンゲルブライト画、Mary Engelbreit's Mother Goose (2005)   f), p)


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